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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第86章 迷い


 零は家に帰ってこなかった。
 それでよかったと安堵している自分にも、嫌になりつつ。
 翌日、零とは少ないながら会話をして。
 出かけることを言い出せなかったのは、ゆっくり話す時間がなかったからだと言い訳を自分にしながら。
 そんなことより、と切り替えたのは覚えることがたくさんあったから。
ファンと言ったからには知識を叩き込む必要があった。
 波土禄道の音楽を、零のいない時間聞きこんで。アルバムにしか入っていない曲も、調べて、聞く。
 とにかくその繰り返し。
 情報サイトからニュースサイト、過去の小さな噂まで。
 インターネットが盛んになった時代はいつまでも残るから、便利になったと思う。
 学生時代、どんな音楽を聴いていただろうか。
 警察学校時代、零と一つのイヤホンで聞いたときとか。
 ──ああ、でも。結局松田さんたちがうるさくて聞こえないとか、そういうことがあって。
 昔のことを思って、少しだけ気持ちが落ち着いた。
 前日の夜にコナンくんから 『僕らは園子姉ちゃん家の車に乗せてもらうから、○○さんは昴さんと来て』と連絡が入ったときに見なかったことにして探偵事務所へ向かおうとすら考えたけど、…そういうわけにもいかないわけで。
 翌朝、ポアロへ向かう零を見送って。
 夕刻、沖矢さんと探偵事務所近くのコンビニで待ち合わせをした。
 探偵事務所前まで来られたら、零に見つかるし。かといって透さんの家に来てもらうのも困る。…わけなんだけど。

 コンビニに着けば、彼の車が停まっていた。
 私に気づけば、運転席から降りて助手席の扉を開いてくれて。
 少し体の距離が近づくだけでびくりと体が反応して、…一方的な気不味さが、増す。
 そんな私をよそに、「先日は焦ってしまい申し訳ありません」って一言告げてきたのは沖矢さんのほうで。運転する横顔を見れば、相変わらず何を考えているのか分からない顔。
 …好かれている、気もする。でも、そう思わせるようにしていると言われれば納得もしてしまう。

「別に気にしてません」

 気にしてはいけない。
 気にしていない。
 そう、言い聞かせる私に運転席から不意に近づく手が髪を撫でた。

「揶揄ってますか」
「いや」

 相手にしてはいけない。
 赤信号が早く変わってほしいとこんなに強く願ったのは、初めてだった。


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