【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第84章 幸せな我儘 ※裏
シャワーから上がってすぐバスタオルで。
洗面所の前で鏡と向き合う零の姿。
右手でハサミを持って、髪を摘まみ。
「いつも自分で切ってたの?」
「ああ。理髪のプロも扱いづらい毛質らしくてね。面倒だから自分で切っているんだ」
ふっ、と何かを思い出して笑う零に、髪を拭きながら首をかしげる。
「いや、以前風見が家に来た時に君以外の女がいるって勘違いしてな」
「何その勘違い」
「僕の髪を女性のものと勘違いしてな。散髪用のヘアピンやちょうどその日替えを用意していた歯ブラシを見られて。……○苗字○のものじゃないからって」
僕には君しかいないのにな、と髪がわずかに短くなった零の姿に頬が緩む。
「ねえ、零。引っ越しが落ち着いて時間ができたら連れていきたいところがあるって言ってたこと、覚えてる?」
「ああ、もちろん」
いつ頃行けそうかな、なんて急かすようなことは聞きたくないけど。
「ポアロだけの予定の日とか、……スケジュール見ておくよ」
「うんっ!」
「ひとまず、そのセクシーな格好をやめて服を着ろ」
「誘惑されちゃうから?」
「そうですね」
「あー! 棒読み!!」
「うるさい。朝ご飯食べる時間が無くなりますよ」
「透さんの!! バカ!!」
朝から明るい笑い声が絶えなくて。
ああ、これが幸せなんだなって改めて思う。
まだ、零との幸せだけを考えることはお互いにできないけど──でも、そんなに遠くない未来に、零にサプライズができる。
そのときの私はそう思っていた。
探偵事務所の前まで送ってもらい零と離れてすぐに、ブブブッ、と震える携帯。
画面を開けば、久しぶりに見るその名前。
≫沖谷昴≪
『本日、夕方に家の掃除を手伝いをお願いしたいので、来ていただけますか? 貸しているものも、お返しいただきたいので』
カバンの中に、電源が切れた通信機があることを見透かされているようで、苦虫を嚙み潰したような気持ちになった。
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