【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第68章 忍び寄る影
「詳しいことはまた後で」
「…はい、降谷さん」
心配しなくていいと零が頭を撫でてきた。
「…心配くらい、させてください…それしか私にはできないから」
ぎゅ、と少しだけ抱き着いたら、零が強く抱きしめてくれて。
「………あー…抱きたい」
耳元で擦れるような、甘く切ない声。
胸板を思い切り押して体を離して、真っ赤な顔になっているのは自分でもわかった。
「こっちのセリフだ、バカ!!」
素直に私もだって言えばいいのに。
…どうして、こんな言い方しかできないのか。
我慢の限界。
走って立ち去る私を、大好きな人の笑い声が見送った。
途中で着替えることにも慣れた。
スーツを着て、髪を縛って本庁に着けばいつもの雰囲気。
夜食にでも食べるだろう。
…ポアロで手渡ししたほうが、喜んでくれたんじゃないかななんて思いながら降谷さんのデスクの上に、お弁当箱を置いて。
「相変わらず愛妻弁当」
「降谷さんそれ見てるときはすっげぇ優しい顔するんだよな」
よっ、と私にそんな風に親しく話しかけてくれる相手に心当たりは二人しかいない。
「清水さんに、結城さん」
「お疲れ」
「今日は早いな」
そっち(探偵事務所)は早く終わったの?と聞かれて頷いた。
「それより、俺たちにも今度何か作ってよ」
「色々迷惑かけられたお詫び、してもらってないし」
「あー…そういえば、ご飯もまだでしたね」
まぁ、零との時間が最優先だからすっかり忘れていたのも事実だけど。
「恩を忘れたって顔してるな」
「そんなことありませんよ。先輩方への恩返し忘れるわけないじゃないですか」
まぁ、でも
「お弁当くらいなら、いつでも作りますよ。降谷さんほど上手くはないですけど」
やった、と喜ぶ二人になんだか笑ってしまう。
「彼女はいないんですか?二人とも」
「俺は二カ月前に振られた。清水さんは一カ月前」
「…へぇ、モテそうなのに」
「ほら、俺らの仕事って会う時間が限られてるでしょ?だから、忙しいとだめ」
「………それは、きっと…」
零みたいに、足りなくなった分を思い切り埋めてくれないからじゃないだろうか。
なんて。
「なに?」
「きっと?」
「なんでもありません」
お弁当は明日作ってきますね、と笑って応える。
私の寂しい気持ちは…零がなんとかしてくれる。
だから、…幸せでいられるんだ。
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