第2章 働いてる私とクズ
私は全ての感情を殺し、
「そういった真似はご遠慮下さい、お客様」
触手をスカートから出す。すると、今度はものすごい速さで触手が私の胸めがけて――。
「!!」
バシッと、後輩のお一人――ツェッドさんが触手をつかむ。
「うぎゃああ! い、いってえ!!」
異界人が大げさに悲鳴を上げ、周囲の客も振り向いた。
ツェッドさんは怖い顔で、
「あなたのしていることは犯罪です。今すぐ――」
「おまえが止めろ。魚類」
静かに言ったのはザップだ。周囲が静まりかえる。
「しかし――!」
文句ありげなツェッドさんを制する。もう一人の後輩、レオナルドさんは無言でそれを見ていた。
ザップは異界人の客に、
「悪いな。こいつ世間知らずでよ」
「チッ。おい会計!」
異界人の客は横柄に私に言いつけた。
「……ありがとうございます」
小声でツェッドさんにお礼を言い、慌てて接客に戻る。
「何で止めるんですか!」
「いいから黙ってろ」
食ってかかるツェッドさんに、ザップは静かに答えるのみだった。
…………
その夜、またザップが泊まりに来た。
何回戦か交え、安ベッドに二人で寝てると、
「あのクソ野郎は二度と店に来ねぇから、安心しな」
裸の私を抱き寄せ、葉巻をふかす。
「あのクソ野郎? あなたのこと?」
私が真顔で言うと、ザップは、
「違ぇよ。昼間、おまえにセクハラした客だよ!」
「…………」
私はたっぷり一分考え、
「ああ!」
とポンと手を打った。ザップは、
「相変わらず強ぇな」
と、呆れたように笑う。
「きっちりシメといたぜ」
「……ありがとう」
ヒーローなら大勢の客の前で『俺の女に何しやがる!』とセクハラ野郎を張り飛ばすのだろう。
だけど、人前で赤っ恥をかかされた側もただでは引き下がれない。
卑怯者の矛先は私に向かう。次はセクハラではすまない。
この街に精通したクズは、逆恨みの恐ろしさを分かっていて、場所を選んだのだ。
「愛してます、ザップ」
「お? もう一回やる?」
葉巻をもみ消し、ザップがニッと笑う。
「やるやる」
「愛してるぜ、チサトー!」
嘘ばっかり。
そしてたくましい腕に抱きしめられ、私はまたベッドに押し倒される。
カッコ悪いヒーローを、愛おしく思いながら。
――END