第5章 ヘルサレムズ・ロットとクズと私
「強いですね……」
「ザップさんの愛人って、皆、あんな人ばっかなんですよ」
後ろで後輩二人組がボソボソとしゃべってる。
それは違う。
私は全然強くないし、むしろ普通。
ザップとつきあう女は、勝手に強くなってしまう。
ヘルサレムズ・ロットそのもののように未知で、強く、底抜けに明るいこの男、ザップ・レンフロ。
私が最も愛する人だ。
「愛してるぜ、チサト」
「私もですよ。ザップ」
そして二人で抱き合ってキスをしていると、
「おいザップ、おまえも事後処理に当たれ!!」
「婦人との逢瀬中にすまない。ガレキの撤去を手伝ってくれたまえ」
ザップの上司らしい二人が声をかけてきた。
その二人を目にした瞬間、私の目が見開かれる。
「ザップ! あの壮絶にカッコいいイケメンと身なりの良い紳士はどなたですか!?
独身!? いや既婚でもOK!! 電話番号は!? 年収は!? 持ち家はいくつ!?」
ジャケットの胸ぐらひっつかんで、まくし立てる私。
「おいチサト~!!」
うるさい。自分が浮気されたくないなら、もっと甲斐性見せろや。
「あの二人は止めといた方がいいですよ」
「ええ。色んな意味で大変ですから……」
後輩お二人が言ってるけど私は聞いてない。一方ザップは私の腰を抱き寄せ、
「俺にしとけって! おまえみたいな女、俺が一番釣り合うんだよ!」
そしてボソッと、
「俺も、おまえがいいし」
あんたに好みだって言われても嬉しくないわ。
……嘘。ちょっと嬉しい。
そのとき。
「チサトさん、この店、立て直してくれるんですか?」
「また働けるなら、俺ら手伝います」
存在を忘れてたが、従業員が後ろから声をかけてきた。
私はザップに腰を抱かれたまま振り返り、
「ええもちろん。皆で頑張って行きましょう!」
『おー!!』
と、皆が叫んだ。
「チサトさん、俺たちも手伝いますよ」
「再開したら食べに来ますね」
レオナルドさんたちが言ってくれた。
「ありがとう」
私は笑い、もう一度ザップにキスをした。
「愛してます、ザップ。私と結婚して下さい!」
「死んでもお断りだな!」
予想通りの返事に二人で笑い、手を取って歩いた。
世界一大好きで、世界一大嫌いな恋人と共に。
――END