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【血界戦線】ザップと私

第2章 働いてる私とクズ



 今日も今日とて、大通り沿いの安食堂は客でいっぱいだ。
 煙草くさいし酒臭い。厨房の熱気で息苦しい。

 しかも。

「チサト! とっとと運べ!! ケツばっか振ってんじゃねえぞ!!」
 店長がこれである。

「はーい! ごめんなさーい」

 店長をブッ刺す妄想で自分をなだめ、次の料理を運ぶ。

「お姉さん、ビールと焼酎追加ねー」
「はーい、ありがとうございまーす!」
「おい、何でそっちの客に先に運んでるんだよ!」
「申し訳ございません、お客様!」

 これが深夜まで続く。とっとと辞めたいのは山々だ。
 だが保証人もスキルもない人類(ヒューマー)の小娘が、身体を売らず安全に働ける場所は多くない。
 ここはやっと見つけた職場なのだ。

「はい、おまたせしましたー!!」

 重い料理を運び終え、どうにか一段落だ。
 ピークタイムも過ぎたし、これで少しは――。

 そのときカランと扉が開く音がした。

「チサトー! 焼き豚定食大盛り三人前と生三つな!!」

 ザップだ。いつもの後輩君二人を連れている。
 奴は入るなりとっとと注文すると、適当な席にどっかり腰かけた。

 全く、ここで食う金があるなら、先に私が貸した金返せっての。
 内心毒づくが、今は客だ。

「はい、ご注文ありがとうございます」

 棒読みで三人分のお冷やと灰皿をとっとと持っていった。

「チサトさん、こんにちは」
「お仕事大変そうですね」

 礼儀正しい後輩二人にあいさつされ、こっちもつい愛想笑い。

「そんなことはないですよ。ゆっくりしていって下さいね……何ですか、ザップ」

 私を見上げ、ザップはニタァっと笑ってる。

「いや制服のおまえって、やっぱ可愛いなって思って」

『……キモっ』

 私と後輩お二人の声がそろう。するとザップは、

「何だてめぇら!! チサトが可愛くねえってのかよ!!」

 後輩二人にちょっとズレた絡み方をするザップ。
 あ。ヤバい。カウンターに料理が並んでる。店長が怖い顔してるわ。
 すぐ戻ろうとすると。

「!!」

 股間を触られた。制服のスカートの中にぬらっとしたものが入ってる。
 ギョッとして振り向くと近くの異界人の客がニヤニヤしていた。

「あ、ごっめんね~。ケツ振ってるから俺に触られたいのかなーって思って」

 ……クソ客が。

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