第1章 雨の日のクズ
「うるさい。明日も早いんだから、今日はヤラないですよ。
着替えたらとっととソファで寝て下さい」
「ええ~、これからシャワー入るんだろ? 隅から隅まで洗ってやるからさ」
「オッサンか。もう少し気の利いたこと言えないんですか?」
腰に伸ばそうとする手をパシッと叩く。
「チサト、冷たくねえ?」
ワンコのように後ろからついてきながらザップが言う。
まあ、今日も散々働かされて疲れたから、不機嫌にもなる。
でも愚痴はこぼしたくはない。
「そっかそっか。チサトちゃん、お疲れか」
クズが私の前に回り込み、抵抗する間もなく抱きしめ、キスをしてくる。
この……舌を入れるんじゃ……。
でもだんだんと私の抵抗も収まってくる。
「じゃ、俺がいーっぱい気持ち良くしてやらねえとな」
光る糸を引いて離れ、ニッと笑う。
……両手の数では足りない愛人を抱えるこの男。
悔しいがセックスのテクだけは追随を許さない。
その日のストレスが全部吹っ飛ぶほどには気持ちいいのだ。
「ゴムをつけないと殺しますよ?」
「おうよ。まかせとけ!」
どういうドヤ顔だ。
朝になったら適当に小遣い渡して追い出さないとなあ。
「愛してるぜ、チサト」
キリッとした顔だけはかっこいい。
「はいはい。部屋が湿っぽくなるから、早くそのズブぬれの服を脱いで」
「おうよ」
服を脱げば、自堕落な生活にはおよそ不釣り合いなほど鍛えられた身体が見える。
ヒモ以外の本職があるのは確実だが、知りたくも無いし知ろうとも思わない。
どうせマフィアの下っ端か何かだろう。
それに明日には死んでるかも分からない。
ここはそういう街だ。
「チサト、風呂入ろうぜ!」
ザップは全裸で上機嫌。すでに半勃ちである。
今晩泊まる場所が出来た、ついでにヤレる。それだけで世界一幸せそう。
何でこんな人間のクズとつきあってるんだろう、私。
「はいはい、ちょっと待って下さい」
でも一緒にいると楽しいし、不思議と憂うつな気分が晴れる。
まあ、そこまでは嫌いじゃないかな。
そう思いつつ、私は自分の服に手をかけたのだった。
――END