第5章 ヘルサレムズ・ロットとクズと私
「おまえは一度寝た男に、情を持っちまう女だ。あんな野郎でもな。
殴られても土下座されたら笑って許しちまう。止めとけ」
……反論したいが、実際に『情を持ってしまった』実例が目の前にいるからなあ。
「俺は、おまえがあのハゲデブに抱かれてるとこなんて、想像したくねえよ」
ザップはポツリと呟いた。食い下がるなあ。
潔いところが好きだったんだけどと、内心失望してると、
「それにあの男は――ヤバい取引に関わってる」
「……は?」
いきなり話が変わり、ポカンとする。ザップはハッとした顔で、
「……という噂があるんだ。俺も他の女から聞いた」
慌てて取り繕う姿に、私は眉をひそめた。
そのとき、ザップのスマホがなる。
ザップはそれを取り、電話の向こうの相手としばし会話をし、
「えー!? 今からっすか!? そりゃないでしょ、スターフェイズさん! 俺はこれから女と――あー、はいはい、分かりましたよ!!」
怒鳴られでもしたのか、顔をしかめてスマホを切る。
どうやら洗濯機の出番は無さそうだ。
「あなたこそ、今勤めてるブラック企業を辞めた方がいいんじゃないですか?」
暇なときはブラブラしてるが、呼び出されれば早朝深夜だろうと出て行く。
そしてボロボロになって、私の元に帰ってくる。
「仕方ねえよ。行きたくねえけど、俺が行かねえと始まらねえからな」
またずいぶんと大きく出たもんだ。どうせ下っ端の下っ端なくせに。
「ホントだぜ?」
そう言って、ザップは道端で私を抱き寄せ、もう一度キスをした。
だけど真剣な声で、
「とにかく。あの男は止めとけ。二度と店に出るな」
「でも私物がまだ店に……」
突然のプロポーズで頭が真っ白になり、そういえば私物を取ってくるのを忘れたのだ。
「そんなことはどうでもいい! とにかく明日は出勤するな!!」
怒鳴られ、驚いた。
だがザップの勢いにうなずくしかなかった。
…………
…………
翌日。
ホントにヤバい取引に関わってたのか……。
「申し訳ありません! 申し訳ありません!!」
今、目の前で店長が額を汚い床にこすりつけ、必死に謝罪していた。
その前には銃口を向けたマフィアが十人ばかりいた。
私は他の従業員たちを背に庇い、震えないようにするだけで精一杯だった。