第4章 ザップと私
「チサト、鳴ってんぞ」
隣でザップも起きたのか、うるさそう。
着信は何度もかかってくる。私も仕方なく、裸の腕を伸ばし、スマホを取った。
何だよ。今日は十四連勤後の休日なんだぞ?
「はい、店長……今日は休みじゃ……え? 何で休日の発注まで、私がやらないといけないんですか……?
責任って、そんなこと言われたって……いえでも……はあ、そんなに大変なんですか。
じゃ、すぐ行きますので――あ」
横で聞いてたザップがスマホを奪うなり、
「悪い。こいつ、昨日限りで辞めっから。後はてめえで何とかしな」
「――は!?」
呆気にとられる。でもザップはスマホの向こうの相手としばし怒鳴り合いをし、
「女を深夜に一人で帰すクズ野郎が何言ってやがる!!
つきまとうのもいい加減にしねえと、俺がてめえをぶっ殺しに行くぞ!!」
壁が震える錯覚を起こすほどの怒声であった。
さすがに相手も沈黙する。
するとザップはとっとと通話を終了。
スマホをテーブルの上に投げ捨て、私に、
「ほら、寝ようぜ」
けど私はそれどころじゃない!
「あなたって人はっ!! 無責任すぎる! 後先考えずに勝手にそんなことを……!!」
私が仕事を探すのにどれだけ苦労したと思ってんだ!!
「後先考えてそのまま勤めてたら、おまえは死ぬか、あのクソ店長か路上のヤンキー共にレイプされるぞ。
それが後先考えるってことなら、俺はぶん殴って、おまえを正気に戻す」
「…………」
怒鳴ろうとした私は、喉元で止まる。
それでも無責任には変わらない。
ザップはホントにいつもいつもいつも、感情だけで行動するクズで、馬鹿で、無責任で――。
ポタポタと涙がこぼれた。
「それに今のおまえは、仕事探しにそこまで苦労しねえよ。
それでも見つからなかったら俺に言え。紹介してやっから」
「……ん」
涙を必死でぬぐう私に、ザップは毛布をかけ直す。
「寝ようぜ。それとも一発ヤルか?」
「……寝ます」
ザップにもたれ、目を閉じた。
すみやかに眠りの世界に帰りながら、こんな馬鹿がそばにいて良かった……と少しだけ思った。
――END