第6章 公園にて
週末。仕事も今日はお休み。
せっかく日曜日に休みがとれたのに、予定も恋人もいない私は、姪のゆきちゃんを公園に連れて来ていた。
この歳で週末に、恋人ではなく姪と出掛けるってどうなの、と軽く自己嫌悪に陥りながらも、砂場で遊ぶゆきちゃんを見る。
スカートや靴を砂まみれにしながら、一生懸命に遊ぶ様子に、自然と笑みが零れる。後で砂を払ってあげないとな。
そうやって、姪を眺めていると、
「小百合さん、待って!!」
ずしり、と背中に衝撃。「へあっ」と奇妙な鳴き声。よろけたが、何とか踏ん張って後ろを見やった。
犬。
細かい犬種はわからないけど、大型犬。背中、重い。
驚きのあまり、上手く言葉が出てこない。これがあの有名な、語彙力が足りないってやつか。
驚く私に、犬はつぶらな瞳で懸命に何か訴えてきている。「撫でて!」と要求しているようにも見える。
これは、要求の通り撫でてあげるべきか、それとも無視すべきか。
私が戸惑っていると、飼い主が走ってきた。
「すみません! お怪我はありませんか?」
「いえ、大丈夫で・・・いけてるお兄さん?」
「? はい」
飼い主は、テレビで見慣れた人物──いけてるお兄さんにそっくりで。思わず聞いてしまったら、普通に肯定された。
隠したりはしないのか。まぁ、そういうもんか。
いけてるお兄さんは、「ほら、小百合さん」と犬を私の背中から退けてくれた。私の背中についた砂を払いながら、いけてるお兄さんは、すみませんと再び謝った。
「いつもは、こんなことないんですけど・・・お姉さんのことを気に入ったのかな? 次からはちゃんとリードを握っておくので」
いけてるお兄さんの犬──小百合さんを見ると、たぶん、目が合った。激しく尻尾を振りながら、構って欲しそうにしている。
いけてるお兄さんが小百合さんの頭を撫でると、心地良さげに目を細めた。へあっ。奇妙な鳴き声も嬉しそうだ。
「私も、触ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。小百合さんも喜びます」
へあっ。いけてるお兄さんの台詞に同意するかのように、小百合さんが鳴く。そんな彼女の頭にそっと手を伸ばす。
あ。ふわふわだ。
しっかりと手入れされていることがよくわかる、艶やかな毛並みは、子どもの髪のように繊細で柔らかい。さらりとした手触りの向こうに、小百合さんの温もりを感じる。
