第5章 気になること
ちらりとうらみちお兄さんの背中を見ると、レジに来たおじいさんがにやりと笑う。
「今の、お嬢ちゃんの彼氏かい?」
「えっ、いや、違います!」
「隠さなくていいさ。いやぁ、若いねぇ。私もお嬢ちゃん達くらいの頃に婆さんと会ってな」
お婆さんとの思い出を勝手に語り出すおじいさんに、愛想笑いを返しつつ、うらみちお兄さんの去っていった方へさり気なく視線をやると、もううらみちお兄さんの姿は何処にもなかった。
***
「で、中村さんは何処を鍛えたいとかあるの?」
こうして、ちゃんと約束を守ってくれる辺り、うらみちお兄さんって優しい人なんだなぁとしみじみ思う。
正直、あんまり何処鍛えるとか考えてないんだよなぁ・・・。
レジ打ちしながら、苦笑いして答える。
「何となく、脂肪をつけたくないから鍛えたいって感じなんですよね。だから腹筋とかやってお腹周りの脂肪とかなくしたいんですけど、なかなか上手くいかなくて・・・」
ああ、通りで。と何故かうらみちお兄さんが納得する。うん、今何に納得したのかな?
「腹筋鍛えたいなら、まずは体幹から鍛えた方がいいと思う。フロントブリッジとかやるといいよ」
そうして、うらみちお兄さんは簡単にフロントブリッジについて説明してくれた。詳しくはインターネットで調べてみてと言われたが、今のうらみちお兄さんの説明でできる気がする。
なるほど、と頷きながら会計の金額を告げた私に、うらみちお兄さんはお金を出しながら真っ黒に澱んだ瞳で微笑んだ。
「でも、トレーニングする前に、まずはちゃんと食事を採らないと。そんな細い体鍛えても、筋肉はつかないからね」
うらみちお兄さんの雰囲気に圧倒されて、仰け反りながら頷く。意味を咀嚼する余裕はなく、勢いだけの反応である。それに納得したのか、していないのか。うらみちお兄さんはテレビで見るあの貼り付けたような笑顔に表情を切り替えた。
「うん☆いい子だね! お兄さんとの約束だからね!」
そう言って、うらみちお兄さんは帰っていった。
1人、心臓をバクバクさせている私を残して。
うらみちお兄さんのあの表情、生で初めて見た・・・。
イケメンなのが際立つなぁ・・・。