第4章 伝えたい
驚いた。
以前の名前を呼びかけたり等々の件で、完全にやらかしたと思ってた。プライベートに突っ込んでくる奴とはもう会いたくない、とか思われて、もう店に来ないかもしれないと。
ただ、それは杞憂だったようで、うらみちお兄さんはこうして店に来てくれた。
しかも、何故か私のいるレジに。
疲労が前面に押し出された表情なので、何を意図して私のところに来たのかはわからない。何も考えてないのかもしれない。
とにかく私は、先日のような失敗をしないように気をつけながら、レジ打ちをしていく。会計をして、いつものようにお釣りとレシートを返しながらお礼を言う。
うん。普通に出来た。たぶん失礼なこともしてないはず。
しかし、うらみちお兄さんはまだ帰らない。
様子を伺うと、話をしようとしている──いや、むしろ、何かを待っているような様子にも見える。
もし私が何か言うのを待っているのなら、先日の謝罪を求めているのかもしれない。
「あの、先日は失礼いたしました」
「ああ、それは大丈夫」
声ちっっさ!!いや、よく考えたら前もそうだったな。
「あ。でも、大声で俺の名前呼ばないで」
「あっ、そうですよね。すみません」
うん。やっぱりうらみちお兄さんご本人だった。呼ぶことがあれば気をつけないと。
話も終わったから、もう帰るかと思いきや、うらみちお兄さんは動く気配がない。まだ何かあるのだろうか。何か迷っているようにも見えてくる。
とりあえず、間を繋ぐために、何か言っておく・・・かな?
「・・・今日もお仕事お疲れ様でした」
「・・・ありがとう」
この間と同じような、少し困ったような笑顔。また何か困らせるようなことをしてしまっただろうか。でも、どこか安心したような、柔らかい雰囲気になったようにも感じる。
満足したのか、それとも結局諦めたのか。戸惑う私を他所に、うらみちお兄さんはそのまま帰っていった。
それからは、うらみちお兄さんがレジに来る度に労りの言葉をかけるようになった。
言わないと、また微妙な間が空いてしまう。
言うと、心做しか瞳が柔らかくなる。気のせいかもしれないが、もしかしたら少し笑っているのかも等と感じる時もある。
うらみちお兄さんの疲れた表情が微かに柔らかくなるその瞬間が、何となく気持ち良い。いつの間にか仕事中の楽しみになっていた。
