第3章 律儀な人
「お客様、お忘れ物です」
そこで、うらみちお兄さんは自分がお釣りを忘れたことに気づいたらしい。
しかし、受け取ろうにも、両手は荷物で塞がっている。
うらみちお兄さんがすっと右手を持ち上げたので、右手の荷物を受け取る。
うっ、お酒の入ってる方だ・・・重い・・・。
お釣りを早く渡してしまいたいのに、受け取る気配がないので、困惑してうらみちお兄さんを見上げると、うらみちお兄さんも困惑した表情で見下ろしてくる。
「あの、お釣り・・・」
「いや、荷物・・・」
「え?持ってるんで、お財布にしまってください」
「・・・はい」
そうして、うらみちお兄さんの手元──中途半端に開いていた左手を見て、やっと私は自分の勘違いに気づいた。
私は『両手が塞がって受け取れないので、一時的に持ってもらうために右手をあげた』のだと思っていたが、うらみちお兄さんは『荷物をまとめて左手で持つために、右手を動かした』のだ。
そりゃ困惑するよね。恥ずかしいわ。
顔に血流が集まるのを感じながら、お釣りを渡して謝る。
「すみません、勘違いしちゃって・・・荷物、お返しします」
「いや、ありがとう」
ちらりと見上げると、少し困ったようなぎこちない笑顔。
あー、やっぱり困らせちゃったよね。度々申し訳ない・・・。
再び歩きだそうとするうらみちお兄さんに、謝罪と恥ずかしさの誤魔化しの意味を込めて声をかける。
「あの、お仕事お疲れ様でした・・・!」
僅かに振り返ったうらみちお兄さんは、再び困ったような笑顔を浮かべて帰っていった。
店長、もしお客さんが1人減ったら、私の失態のせいです。ごめんなさい。