第3章 律儀な人
まさか2度目があるとは思わなかった。
えーっ?!そんなの運命みたいじゃない!と一瞬思ったが、冷静に考えてみると、彼が気を遣って来てくれたのだろう。
カゴの中にはお酒、へしこ、その他。そして正面には疲れきった顔のうらみちお兄さん(仮)。
私が余計なことを言ったばかりに・・・!!仕事終わりで疲れてるだろうに、わざわざ買いに来てくれるの優しすぎでしょ、うらみちお兄さん(仮)・・・!!
感動と申し訳無さを感じながらも、バーコードを読み取っていく。
お、魚だ。自炊してるの偉いなぁ。
読み取りながら、カゴの中を観察してしまう。晩御飯は何かとか、買い溜めする人かどうかとか、どうでもいい考察をするのがレジ打ちの唯一の楽しみだ。
まだ2回目だが、うらみちお兄さん(仮)の考察をすると、お酒は買い溜めする人だと思う。特にビール。前回も思ったけど、1度にこんなに買ったら重いんじゃないだろうか。でも、これだけ筋肉があると軽々と持って帰れるのかもしれない。
そして、
「へしこ、美味しいですよね」
たぶんへしこが好き。
私も昔食べた気がするが、味はとうに忘れた。
それでも、何か話題が欲しくて話をしてみれば、うらみちお兄さん(仮)の光を失くして濁りきった虹彩と目が合う。
あー、疲れてるのに、余計な話して更に疲れさせちゃったよ・・・。失敗した・・・。
「・・・すみません」
「いや・・・別に」
小声での謝罪にまで反応してもらって、申し訳無さに更に居心地が悪くなる。
手早く会計を終わらせて、お釣りを渡そうとすると、余程早く帰りたいのか、うらみちお兄さん(仮)はもう背中を向けていた。
何で?!待って!悪いのは私だけど、お釣りだけは受け取って!!
「うらみt・・・お客様!」
おっと、名前を呼んでしまうところだった。途中で気づいたせいで、変なところで切ってしまった。『うらみ』って何だよ、誰に対してうらみを持ってるんだよ。
でも、そのおかげでうらみちお兄さん本人であると確信が持てた。だって、ちょっと慌てた様子で振り返ったし。相変わらず疲れた表情だったけど。
お釣りとレシートを手に、うらみちお兄さんに駆け寄る。