第2章 出会ったのは職場でした
『良い子のみんな~!!こ~んに~ちは~!!』
脳裏に響く、明快な声。
今朝、姪と一緒に見た教育番組。
――その、体操のお兄さんにそっくりな男性が目の前にいる。
そっくりと言うか、たぶん本人だ。
テレビに出ているときと異なり、明るい雰囲気も優しいそうな雰囲気もない。表情も疲れ切っている。
しかし、引き締められた肉体はテレビで見てきたものそのものである。
肉体美って、こういうことを言うんだなぁとぼんやり考えながらもレジ打ちを進める。
視線を下すと、カゴの中に入れられた、大量の酒、へしこ、酒・・・。
人を呼んで宅飲みでもするのだろうか。晩酌をするにしてはやや量が多い気がする。・・・まぁ、あまりお酒を飲まない私にはよくわからないが。
へしこのバーコードを読みながら、ふと思い出す。
これ、言ってもいいかな。まぁ、いいよね。店長。
「お酒、来週の水曜日だと10%引きになるんですけどね」
言いながら、宅飲みするなら関係ないかと思い至る。正面のうらみちお兄さん(仮)も「ふうん・・・」と気のない返事。
沈黙。
いや、レジ打ちなんて特にお客さんと話すことないから、沈黙が普通だけどね。余計な事言うんじゃなかったと後悔しつつも、日本酒のパックに手を伸ばす。
「あ。それ、来週にする。あとこれも」
「あっ、はい!戻しておきますねー」
気を遣わせてしまったかもしれない。若干の申し訳なさを感じながらも、指定されたお酒を脇に避ける。
「3423円になります」
金額を告げると、きれいな指がお金を出していく。妙に意識してしまって、お釣りを返す指が微かに震えた。気恥ずかしさに視線をレジへと向けて誤魔化す。と、上から小さな声が降ってきた。
「・・・ありがと、中村さん」
慌てて顔を上げた時には、うらみちお兄さん(仮)はすでに歩き始めていた。
その背中を目で追いかけているうちに、次のお客さんが来て、仕事へと意識を引き戻される。
(仮)ではあるが、そう頻繁に会える相手ではない。もう少し話してもよかったかもしれない。でも、迷惑になるだろうか。などと悶々と考えながら、その日の仕事は終わった。
それにしても、なんで私の名前知って――あ、名札か。