第1章 プロローグ
カーテンの隙間から朝日が差し込む。鳥達の朝を告げる鳴き声がする。
ゆっくりと瞼を開くと、見慣れた整った顔立ちが視界に映った。
真っ直ぐに伸びた髪は一見固そうだが、その実柔らかい。
すっと通った鼻筋に朝日が触れている。
微かに開いた唇から、静かな寝息が紡がれる。
長い睫毛は伏せられていて、その向こうにある疲れきった瞳を隠している。
年齢よりも幼く見える顔立ちは、眠っていると尚更子どものようで。
私はそっと彼の前髪をかき揚げた。
顕になったおでこに、優しく触れるだけの口づけを落とす。
大好きな彼へ、目一杯の愛情を込めて。
そして、今日もまた仕事で心をすり減らすであろう彼へのエールも込めて。
静かに体を離すと、彼の瞼が微かに震えて隠されていた黒曜石が現れる。黒曜石は辺りを確認するように揺れ動き、こちらを見ると、ふっと柔らかく煌めいた。
少し困ったかのような、ぎこちない微笑み。
仕事用の、貼り付けたような満面の笑みではない。笑うのが苦手だと言う彼なりの、精一杯の笑顔。
表情は強ばっているが、その瞳と雰囲気は優しく、暖かい。
そんな不器用なところも、愛おしく感じてしまう程に彼のことが好きだ。
少し前まで、画面を隔ててしか見たことのなかった存在。こんなにも近くに感じられる日がくるなんて想像すらしなかった。
「何見てんの」
寝起きの掠れた声が笑っている。からかうような口調に、笑って返す。
「裏道さん。好きだなぁって」
照れ隠しなのか、彼の眉が少し八の字になる。誤魔化すように伸ばされた手に従って、再び彼の顔へと唇を寄せた。
今度はおでこではなく、唇に。
カーテン越しの朝日が包む世界で、よい子のあなたに口づけを。