第2章 はじめまして
「死ねえええ!!!!!」
爆豪の声が響いた。
ヒーロー科でこんな掛け声が聞けるとは思っておらず、思わず終綴は苦笑いした。
──結構尖ってるな、彼。
──…っていうか、ヒーロー志望で、こんな人がいるんだ…。
そういえば、この男は教室でも口が悪く、机に足を乗っけるなど、態度も悪かった気がする。
それとも、自分の認識が間違っているのだろうか?
ヒーロー志望は皆こんな人間ばかりなのだろうか?
しかし、周囲を見るとやはり皆ドン引きしていて、自分の感覚は正しいのだと安堵した。
──すごいな…
──これなら、私の家族の方が礼儀正し…
そこまで考えて、慌てて首を横に振る。
──さすがに失礼か。
自分の家族は──否、考えるのはよそう。
会いたくなってしまう。
次の長期休みまで、会うのは我慢しなければならないのだから。
本当なら自宅から通っても良かったのに、恋人である青年が一人暮らしをしろとうるさかったのだ。
彼は恋人であると同時に、家主でもあるため、彼女は頷くしかなかったのである。
──恋人…家族…うーん、どっちもなんだけど。
──でも、結婚とかはしてないし…
──結婚…………
──いつか、するのかな。
思わず頬が緩む。
へへへ、とニヤけていると、相澤にギロリと睨まれた。
マスクをしているから、口元が描く弧は判らないはずなのだが。
集中していない様子に気付いたらしい。
それにつられてか、クラス中の視線が終綴に集まる。
「あっ、……えへへ」
笑って誤魔化す。
──許してよう。
数時間前とは打って変わった相澤の態度に、面白くないなぁと終綴は内心でごちる。
しかし、それでは駄目だと言うかのように、くいっと相澤は顎で先程まで爆豪が立っていた場所を示した。
「随分余裕そうだな、お前もやれ」
──よっよゆ…!?
──いや、確かに話あんま聞いてなかったけどさ…!!
「よっ余裕とかっそんなつもりはっ」
慌てて逃れようとするも、
「どうせ後からする事になる。
それに、実技だけで言うと1位はお前だからな」
と一蹴された。
さり気ない情報に、クラスメイトたちはどよめき、──期待した目を向けられた。
ポリポリ、と困ったように頬を掻く。
どうやら、この担任は本気のようだ。
逃げ道はない。
──仕方ないか。