第22章 研いで、曇る
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「ただいま、肩動」
「待ってたぞ終綴!死合しよう!」
地下に行き、すぐに戦闘態勢に入る2人。
そして、どちらかともなく2人は駆け出した。
乱波は、己の拳を振るうべく。
終綴は、鋭い蹴りを入れるべく。
終綴は拳を握っている。
乱波は個性が使えないことに気づき笑う。
「俺、終綴殺す!!!」
鋭い蹴りを乱波の脇腹に入れる。
しかし決まったと思ったその蹴りは、乱波の腕によって防がれていた。
シュウウウ、と何かの蒸発するような音がする。
焦げ付いた臭いが鼻を擽るが、その発生源が乱波の腕────終綴の蹴りが当たったところだと、2人は判っていた。
もう片方の手が拳を作り迫ってくる。
慌てて飛び退く。
ガンと重い音が響き、地面にヒビが入った。
懐から出したナイフを投擲する。
乱波はそれを躱す。
しかしそれは所詮目くらまし。
一気に距離を詰め、終綴は飛びかかった。
羽交い締めにし、ブラックアウトを図る。
華奢な体のどこからそんな力がとよく言われる終綴だが、彼女は筋肉質で力が強い。
個性がこの世になかったとしても、腕っ節だけでかなり強い部類に入れるだろう。
すると乱波は何を思ったか、終綴の腕をベロリと舐め上げた。
「っ!?」
ゾクっと背中を撫でられたような快感、否、生温かさから逃げるようにして、乱波から距離を取る。
警戒するようにして睨むと、乱波は全く悪びれる様子なく笑った。
「お前を手篭めにすれば、オバホと死合できる」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「………馬鹿なの!?」
思わず叫んだ。
戦闘狂だとは思っていたが、これは単なる馬鹿なのではないか。
──てか今私と戦ってるじゃん!
──なんで廻!?
──しかもそれ普通に殺されるやつ!
──復元してもらえないやつだからね!?
乱波の答えがあまりにも予想外すぎたため、一時休戦。
そして、
「家族で殺し合いしてるのは見たくないかな…」
はは、と終綴は苦笑した。
苗字は違えど、乱波は自分の立派な家族である。
顔を合わすたび殺し合いをするけれど、それでも大好きで、大切な存在であることに変わりはない。
───肩動だけじゃない、他のみんなも…守れるくらい、強くならなくちゃいけないんだ。