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水面下の梟【ヒロアカ】

第8章 想いと思い


***
緑谷がそこにいたのは、本当に偶然だった。

過去のヒーローたちをモデルにした映画で、この映画館では入場者特典があったので、そのために緑谷は自宅から遥々来ていたのだけれど。

視線の先には、見慣れた、特徴的な赤髪。
この映画には、彼の尊敬しているらしい、紅頼雄斗も出ていたから、それ目当てに来ているのかと思った。
せっかくの機会だし、ぜひとも感想を語り合いたいと緑谷は声をかけようと思ったのだが、────彼の隣に、連れらしい女性がいるのに気付く。

──うわ、モデルさんみたいだ…

白のスキニーに包まれた脚はすらっとしていて長く、そして筋肉で引き締まっているのが判る。
1つに束ねた髪は軽く巻かれていて、頭が動く度にふわっと揺れる。
一つ一つの仕草までもが可愛く見え、そして漸く────その女性に、心当たりがあることに気付いた。

──あの人、まさか依田さん?

そして、胸がズキリと音をたてた。

──切島くん、依田さんと、仲、いいんだなぁ……。

どちらが誘ったのかは解らないけれど。
いいなあ、なんて漠然と思ってしまう。
自分には彼女を誘う勇気などないし、誘われることもないだろうから。
その分、彼女と切島との距離は近いものと言えるだろう。

──でも、僕なんかじゃ、依田さんにはつり合わないだろうし。丁度いいのかもしれない。

何ともネガティブな思考に陥ったとき、終綴の視線がこちらに向いた。
振り向いてサッと周囲を見渡し、それから緑谷に気付いた、といった様子である。
最初から緑谷の存在に気づいていたわけではなさそうだった。

緑谷に気付いたらしい彼女は、切島の袖をツンツンと引っ張って、こちらを見るよう促している。

切島と終綴は、にこにこと手を振ってきた。
その様子が何とも親しげで、既に付き合っているかのように見えてしまってならない。

──邪魔しちゃったかなぁ…

あまり2人を凝視していたつもりはないのだが、気付かれてしまっては、挨拶しないわけにもいかないだろう。
何となく気まずいなと思いつつ、緑谷は苦笑いしながら2人の元に行った。



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