第8章 想いと思い
「学校の外で同級生と会うなんて、何だか新鮮だね!」
パッと花が咲いたように笑う終綴。
私服になっても彼女は綺麗で、惚れ惚れしてしまう。
思わず緑谷は頬を紅に染めたが、切島のことを思い、僅かに目をそらした。
切島も少し気まずそうにして目を逸らし、それからよう、と片手を上げた。
まさか同級生にデートの現場を目撃されるだなんて思わないだろう、少し恥ずかしいのかもしれない。
少し話したらこの場を離れようと、緑谷は申し訳なく思いつつも、さり気なく話題を振る。
「え、あ、そうだね……えっと、2人は何を観たの?」
「俺らが観たのは───────」
緑谷はその内容に驚いたが、終綴が眉を僅かに顰めたことが気になった。
「どうし、」
「緑谷は何を観たの?」
緑谷の質問に重ねるようにして問うてきた終綴は、普段通り、朗らかな笑顔を浮かべている。
───………?
───何だ、今の違和感?
時折、終綴は鋭い目付きになることがあり、いつもの表情は一瞬にして消え去る。
その視線は冷たく鋭利で、見た者を凍死させるのではと錯覚させるほど。
しかしそれすらも一瞬であって、すぐに普段通りの笑顔に戻るのだ。
柔らかく朗らかで、人好きのする、そんな可愛らしい表情に。
誰からも好かれそうな、そんな笑顔に。
それが恐ろしいと思い───────…、緑谷は自分の考えを全否定した。
───だめだ、友達のことをそんな風に思うなんて失礼極まりない。
───やめよう、考えすぎだ。
後ろめたさから目を逸らし、緑谷は微妙な引き攣り笑いをしながらじゃあ、と2人から離れた。
最初の態度との違いを、終綴は訝しげに見つめていたが、すぐさま切島に微笑みかけた。
「びっくりだったね!緑谷に会うなんて!!!
…じゃ、次はどこに行く?」
切島はこの時。
終綴の表情まで、しっかりとは見ていなかった。
気になる女子と2人で外出というシチュエーション。
いつもと違う服装。
その全ての状況に、浮かれていたのだ。
───もう片方は、心中でほくそ笑んでいたというのに。
哀れな男はそれに、気付かない。