第8章 想いと思い
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「おはよう!」
切島が駅の改札で待っていると、明るい声が掛けられた。
そちらに顔を向けると、モデルのような輝きを放った終綴がいた。
肩から二の腕にかけて大胆にカットされた、鮮やかなイエローのトップスに、白いスキニーを合わせている。
足元は涼しそうなウェッジソールのサンダルを履いていて、学校で見るのとはやはり全然雰囲気が違う。
ポニーテールにした髪の隙間からは華奢な首が覗いていて、女子らしさ全開である。
耳元ではイヤリングが輝いていて、その揺れが何とも色っぽい。
──やべ、可愛い…
こういうとき、女子の私服は褒めるものなのだろうか?
いや、でも付き合ってもいない男に褒められるなんて気持ち悪くはないだろうか?
上鳴にでも聞いときゃよかった、と今になって後悔する。
おはよ、なんて固い返事をしながら、近くの映画館まで歩いていく。
やはり終綴が笑うとその周囲には花が咲いて、その無垢さがとても愛おしいものに思えてくる。
まだ、出会って少ししか経っていないというのに。
──静まれ、俺の心臓。
思わず口をついて出てしまった「日曜どこか行こう」が、まさか叶うとは思っておらず、切島の頭はいっぱいいっぱいだ。
──しかも、映画とか…
──思いっきり、デートコースじゃねぇか。
「切島、私服似合うね!!」
さてどうやって会話始めるかとぐるぐる考えていると、終綴がリードしてくれた。
男子はどっちだ、俺は漢なのに、と少し悲しかったり、それでも嬉しかったり。
恋する者の胸は、いつも騒がしい。
「お、あ、さっサンキュな!
終綴もそのっ…似合ってるぜ!!」
──噛みすぎだろ俺ぇ……!!
ありがとう、嬉しい!
また、花が咲いた。
終綴の笑顔が眩しい。
どこぞの爆破男にはクソナードかよと笑われてしまいそうだ。