第8章 想いと思い
「おーい依田!」
終綴が周囲を警戒しながら歩いていると、後ろからクラスメイトの声がした。
「あ、切島も帰る?」
振り返って笑うと、切島はおう!と頷いた。
隣に並び、ゆっくりと駅まで歩く。
──困った…
終綴は、雄英の最寄り駅を使わない。
そもそも電車自体使わないのだが、どうするか。
「依田って家から学校までどんくらいかかるの?」
──……………。
少し考えてから、終綴はにっこりと笑った。
「3時間ぐらいかな!」
結構遠いな、と切島は驚いている。
「じゃあ実家暮らし?」
「んーん、1人暮らし!
…それにしてもさ、切島の個性、羨ましいよ~!」
──これ以上は踏み込まないでほしい。
そう思い話題転換を試みると、切島は照れたように笑った。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどよ…
強くも何でもねぇぞ?」
「私、防衛戦になるとめっぽう弱いからさぁ…
すごいと思う!!!」
これは本心だった。
──それに、あいつの個性と合わせればほぼ最強。
稀に使う、家族の個性。
それと合わせれば、勝てない勝負は少ないだろう。
最強の盾は、矛にもなりうる。
──いい個性だよね、欲しいなぁ…
欲望が覗く。
しかし、すぐに我に返った。
──いけない、…だめだめ。
「…っなあ、依田」
本心を隠しながらにこにこ笑っていると、切島はいつの間にか真剣な面持ちになっている。
どうしたのだろう。
何か相談事でもあるのだろうか。
だから追いかけて来たのだろうか?
──なら、私には話さないほうがいいと思うけどなぁ。
他人事のように内心で呟くが、続く言葉は、完全に予想を超えていた。
「今度…日曜とか、どっか2人で行かねえ?」
──え、あー……
──何、そういうこと?
ようやく察する終綴。
──私、彼氏いるんだけどなぁ。
そうは思うも、しかしこれはチャンスかもと思い直す。
何についてのチャンスなのか。
それは終綴のみぞ知ることだ。