第8章 想いと思い
「えへへ、みんな優しいね!!
ありがとう!
…じゃあそろそろ私帰る!!」
照れたように笑って、終綴は自席に戻った。
時計を確認していたから、門限でもあるのだろう。
戦闘力は高くても、終綴は外見だけで言えばただの綺麗な女子高生なのだ。
悪事に巻き込まれる可能性だってある。
まだ遅い時間ではないけれど、親も心配なのだろう。
いくら強いとはいえ、個性の使用は資格でもない限り基本は禁止されているし、例外となる「自己防衛」だとしても、咄嗟の判断で動くことは難しいのだ。
USJ事件で、それは身にしみていた。
元々纏めてあった荷物を手に取り、終綴はブンブンと手を振っている。
これだけ見れば、やはり戦闘の時の彼女と同一人物とは思えない。
それほどまでに無邪気で、そして愛らしかった。
彼女が笑うと、周囲に花が咲く。
早くも、終綴はクラスの中心人物になっていた。
「ばいばーい!」
──さすがに、
一緒に帰りたい、と女々しいことを思ったが、まだ親しくなって間もない男と二人きりというのは気まずいだろう。
切島としては帰りたかったが、それを彼女に押し付けるのは憚られた。
申し訳ない気がしてしまう。
そう思って、伸ばしかけた手を下ろしてしまう。
しかし、それを周囲はしっかりと見ていた。
「行きなよ切島!」
芦戸はぐ、と拳を握っている。
あいつ鈍感そうだしねー、と耳郎もどうやら応援してくれているらしい。
女子は、恋する者の味方らしい。
自分の気持ちがバレていることに恥ずかしさを覚えたが、もうそれは関係なかった。
友人が応援してくれているのだ。
漢なら──────、全力でぶつかるのみ。
サンキュ!と言い残し、切島も荷物を持って教室から出て行った。
緑谷は目を泳がせ口をモゴモゴとさせていたが、奥手な彼は、何も言い出せなかった。