第8章 想いと思い
そういえばさぁ、と話が盛り上がったのは、決して偶然ではない。
その日、A組では戦闘訓練があって、またもや終綴が突出した成績を見せたからだった。
「依田ってマジ強くね!?
ガン!ガン!って!!」
そう言ってキックの振りをするのは上鳴だ。
「ありがとう、めっちゃ嬉しい!!!
上鳴もすごかったけどね!!!
ビリビリってやつ!」
キラキラと終綴の顔は輝いている。
「すごかったよー!」
芦戸の口調はどちらを褒めているのか微妙なところだったが、耳郎は「ププ…あんたがやると、キックもダサいね…」と笑っているので、恐らく褒めているのは終綴の方なのだろう。
決して、彼女も上鳴を貶しているわけではないのだが。
緑谷も興奮した様子で頷いており、飯田も感心していた。
そんな中、切島だけが、どこか上の空だった。
「切島?どうしたの?怪我でもした?」
それに気付いたのか、心配そうに、終綴が切島の顔を覗き込んだ。
ぶわ、と顔に熱が集まる。
「だ、大丈夫ッ!!」
「そう?なら良かった!」
その笑顔に、心臓が鷲掴みにされた気がした。
ばく、ばく、と心臓が煩い。
今日の授業で、切島は終綴とペアだった。
普段は「すごい」「やばい」しか言わない、少し幼いイメージだったのに、事が戦闘に及ぶと思考は明晰、的確な指示で対戦チームを圧倒した。
そんなギャップに、切島はヤラれてしまったのだった。
こんなに可愛らしい笑顔を浮かべるというのに、どこにあんなパワーがあるというのか。
まだ回数を重ねてもいないクラスメイトたちとの戦闘なのに、それぞれの癖も正確に把握していて、ペアとしては本当に動きやすかった。
──強かったし。
──ってか、こいつ、細っ。
気になり始めると、女子らしい部分が沢山見えてきて、
心臓が、
本当に、
煩い。
時折香る甘い匂いも、恐らくは隣にいる終綴のものなのだろう。
香水なのかそれとも終綴本人の香りなのか、それは判らないが、それでも女子に耐性のない切島には充分だった。
──やべぇ…
切島の熱の篭った視線には気付かないまま、終綴は無邪気にクラスメイトたちとの会話を楽しんでいる。
それがまた、可愛い。