第2章 はじめまして
「はい、静かになるまで8秒かかりました。
時間は有限、君たちは合理的じゃないね」
そんな声を聞きながら、やはり終綴は気にせずパラパラとページを捲る。
──フム。
──次は『ウィーン精神』でも読んでみるかな。
まだ読み終わってすらいないのに、次に読む本について考える終綴。
何か意味でもあるのだろうか、教室をぐるりと見回した。
「グラウンド集合な」
その言葉を合図に、皆が体操着を持って立ち上がる。
遅れてはいけないと、終綴も本を鞄にしまってから慌てて流れにのった。
──前の子、デカいな。
立ち上がる際にちらっと見えた、自分の前の席に座る女子生徒。
170くらいあるだろうか。
クールで知的な顔立ちを、ポニーテールという髪型が更にキリッと見せている。
意外にも(?)カラフルな髪色が多いクラスの中、彼女の黒髪は目立っていた。
それから、目の前を歩く紅白頭に目を向ける。
奇抜な髪色と、それを良い意味で裏切る、整った顔立ち。
見覚えがあった。
──エンデヴァーの息子…同じクラスだったのか。
家族から、エンデヴァーの息子が同期で入学するらしいよと教えてもらったのが2月。丁度受験シーズンだった。
隠し撮りでもしたのか、見せてもらった写真はどれもカメラのない方向を見ていたが────その全てに共通するのは、冷めた視線。
他を寄せ付けないといったその雰囲気は、父親によく似ている。
世間、否、この世の全てが憎いとでも言いたげなその瞳は、とてもヒーロー志望のものとは思えず、印象に強く残っていた。
──個性婚の成功作なんだっけ。家庭が複雑なんだよね、確か。
エンデヴァーは全国的に有名な、「No.2」ヒーローで、同時に「No.1」の地位を渇望しているのは周知の事実。
しかしながら、個性婚の件は殆ど知られていないはずなのだが────
終綴はどこまで知っているのだろうか。
なぜ知っているのだろうか。
しかし終綴はそれ以上考えることはせず、軽い足取りで女子更衣室に入っていった。