第7章 相澤の復帰
────出たら、少なからず目立つことにはなると思うけど。
────個性は、どうしようか。
できることなら、メディアに露出する以上、個性の使用は控えたいところである。
しかし、かといって使わないわけにもいかないし、それなりの成績を残さなければ、雄英に来た意味がなくなってしまう。
大手の事務所に、スカウトされなければならないのだ。
そのために、自分はここに来たのだから。
事務所の目に付くには、派手な個性と目立つ成績を残さねばならない。
そんな矛盾を抱えつつも、終綴は思案した。
そして、1つの案に辿り着く。
────そうだ。
────あいつのを借りよう。
多少面倒なことにはなると思うが、それは仕方ない。
思い立ったが吉日。
終綴は、すぐさまその"あいつ"に電話をかけた。
────勿論、HRが終わってからだが。
静かな廊下の、柱に隠れた場所に移動し、コールを鳴らす。
「もしもし?私だけど」
『──────』
「いや、てかあんた携帯使えたんだね」
『──────────』
「や、壊しそうじゃん。
………要件はそれじゃなくてね、その、体育祭の日、"貸して"」
『────────────────』
「えぇ…それは割に合わないよ」
『────────』
「ん。それならまぁ…」
何か条件でも提示されたのだろうか。
渋々といった感じで、終綴は頷いた。
またあとでね、と電話を切って、終綴は溜息を吐いた。
どうやら、通話相手に言われたことがよっぽど嫌だったらしい。
そして、それから教室に戻ろうとして──────ギクリ、と身をこわばらせた。
爆豪が、すぐそこに立っていたからだ。
しかし、それも一瞬。
「爆豪じゃん!どうしたの、こんな所で」
普段通りの笑みを終綴は浮かべるが、爆豪はほっとけ、と詮索をさせなかった。
そのまま、爆豪は教室に戻っていく。
────手ぶらだ。
爆豪が何も手に持っていないことに気付き、終綴は眉を顰めた。
廊下の隅まで、手ぶらで来る意味とは。
自分の後をつけてきたのではないか。
それしか考えられない、と終綴は憂鬱になる。
油断しすぎていたらしい。
────ただの素人とはいえ、警戒はするべきだったか。
まぁいい。
肝心な単語は、何も出していないのだから。