第6章 初対面にて爪を立てろ
そして、運の悪いことに────緑谷たちは、気付かなかった。
もう一体の脳無が、近付いてきているということに。
相澤が、倒れているということに。
自分たちもまた、標的に成りうるという事に────
「何っなんだよあいつ…!」
脳無を倒しておきながら、あの女子生徒は当然のような顔をしている。
なぜか服装は男性用スーツだし、意味が判らない。
あれがヒーローコスチュームだとでも言うのか?
ネクタイだけが白い黒スーツなど、普通はパーティ用のはずだし、マスクがやけに浮いて見えることも気になる。
靴はどういうわけかスニーカーで、しかしちぐはぐな印象は受けない。
彼女に馴染んでいるというか。
着慣れているのだろうか。
脳無はピクリとも動かない。
というか、再生が追いつかないのだろう。
四肢はもげたまま、沈黙している。
脳無を行動不能に陥らせた終綴は、ぐるりと辺りを見回した。
手のような奇妙な物体をたくさん付けている青年が、恐らくこの作戦のリーダーだろう。
ワープゲートのような黒い人(?)は、その側近だと終綴は予測した。
脳無は、恐らく対オールマイト用。
吸収の個性が、それを示していた。
──増強型の個性っぽい怪力と超再生、加えて吸収の個性…。
──明らかに、オールマイトを意識して「作られて」いる。
それが自分によって倒されたということは、────身に危険を感じ、前方に跳躍した。
瞬間、耳のあたりを何かが掠る。
「ッ!!!」
慌てて振り返ると、こちらに向かってきたのはやはりリーダー格の青年。
──あっぶな。
──死んだらどうしてくれるのさ。
殺傷能力に秀でたスタンガンを先程まで撃ちまくっていた自分のことを完全に棚上げし、終綴は心の中で毒づいた。
「何だよお前……ただのガキじゃないのか…………?脳無はオールマイト用なんだぞ…?」
苛立つように、首をボリボリ掻き毟る青年。
──やっぱりこいつが本命か……
──ってかさっきから掻き毟ってばっかだけど何、アレルギー?
──治してあげたいなぁ。
呑気にそんなことを思っていると、青年は
「ムッカつくんだよお前ぇ…!!」
と更に苛立ち始めた。