第6章 初対面にて爪を立てろ
だが、彼女の性格が災いしたか────終綴はにっこり、と笑った。
光の宿らない、濁った瞳のままで。
「やだ。お兄ちゃんが負けるところなんて…見たく、ないし」
「誰が負けるか」
「油断は大敵だよ?」
言いながら、終綴はそれまで握っていた拳を解放した。
すると、その手の方向にいた敵たちに衝撃波のようなものが与えられ、そのまま体が小さな爆発を起こす。
相澤は相澤で、終綴を説得しようと試みつつも次々と打撃により敵の気絶を誘う。
そんな惨状を目にした死柄木は、
「脳無」
と、一言呟いた。
すると、彼の傍で控えていた奇妙な生物が2体、相澤と終綴、それぞれに襲いかかった。
奇妙な生物。
それは、脳が外側から見て判る程むき出しになっており、その巨体は黒に限りなく近い藍色。
上半身は裸で下半身には何故か人の着るようなチノパンを着用しており、その違和感を拭いきれない。
「…っ!!!」
重量系の異形型との戦いは得意とは言えず、自分の個性では最も不得意な部類に入る。
終綴を守る気でいたのに、自分の分で精一杯であると気付いたときには既に遅────────くは、なかった。
死柄木は、その光景に目を丸くした。
「は………?」
目の前で繰り広げられているのは、たった1人の女子生徒が脳無を圧倒している、そんな光景。
「へー、吸収かぁ」
何かを考えるように、一瞬だけその目は細まった。
その実力を計るような、そして何かに気付きつつあるかのような。
どろり、と瞳の奥で何かが動いた気がした。
「いい個性だ…まるで、オールマイト専用みたいな」
もっと、見せてよ。
手を脳無に翳し、握ろうとして────しかし、そこで終綴は手の向きを変えた。
他の敵たちから個性を奪取する。
──何だあれ…!?
──何かよく判らないけど、死相が見えた!自分の!
──あいつ…何者だ?
様々な可能性を浮かべては消し、浮かべては消し。
とにかく、あの「脳無」とやらが危ない存在であることだけは確実になった。
他から奪った個性を駆使し、電気を放ったり、貯めた個性を放出したりして、脳無にダメージを与えていく。
どう見ても彼女が優勢なのに、真剣な表情は全く崩れない。
警戒しているのか、それとも考え事をしながらの戦闘だからなのか。