第6章 初対面にて爪を立てろ
しかし終綴の予想に反して、相澤は次々に敵を倒していく。
肉弾戦に強いとの言葉は────意訳だが────伊達ではなかったようだ。
──やっぱ、この目で直接見るのとは違うなぁ。
終綴は、しっかりと実兄の戦う姿をその目に焼き付ける。
瞬きする時間さえも惜しいと言うように、じっくりと。
「分析している場合じゃない!早く避難を!」
じっと黙って見つめていたため、飯田にはイレイザーヘッドファンと見られたようだった。
追っかけをしているという意味では、あながち間違いでもないのだが。
はぁい、と頷いて大人しく委員長の指示に従う。
外に続く扉に近づき、逃げようとするが
「させませんよ」
黒いモヤが一瞬でこちらにやって来た。
先程の敵も彼の体から来たところからしても、この男が転送系の個性をもつ、「出入口」のようだ。
こちらを注視することはない。
つまり、自分の存在は、「知られていない」。
これだけで、終綴は良かったと思う。
恋人関係のことではなさそうだ。
13号が、生徒たちを庇うように男との間に立つ。
「我々は敵連合…僭越ながら、この度ヒーローの巣窟・雄英高校に入らせて頂いたのは────平和の象徴・オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
仰々しく自己紹介をする男。
その言葉に、緑谷は絶句する。
──は!?
隣を見遣ると、終綴も目を丸くしていた。
しかし、その瞳には恐怖も不安も宿ってはいない。
ただただ、純粋な────驚き。
そして数秒、瞬かせた後────飛び出した。
黒いモヤとは、反対方向に。
つまり────相澤の方へと。
「行かなきゃ!先生が死んじゃう!」
「待ちなさい!」
「依田さん!?」
「オールマイトを殺すってことは、相澤先生が殺されてもおかしくないでしょ!そんなの見てられないよ!!」
13号と緑谷の声が呼び止めるが、それでも彼女は止まらなかった。
黒いモヤの男はそれを眺め、
「まぁ…逃げないのなら良いでしょう」
と、放っておいた。
そして向き直る。
自分の獲物はお前だと。
プロヒーローに、知らしめるために。