第6章 初対面にて爪を立てろ
「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に2列で並ぼう!」
着替え終わりバスの前に行くと、飯田が普段通り、張り切っていた。
ピッピッと、どこから持ってきたのか、笛でクラスメイトたちに行動を促している。
だが、それをクラスメイトがあまり気にしないのもいつものこと。
「ねーっ緑谷、隣座ろうよ!」
そんな中、終綴は飯田を丸無視して緑谷に話しかけた。
「へぁっ!?
あぁぁあいやでも、飯田くんが席順って言ってるしっ、ああ、い、嫌な訳じゃなくて、むしろ嬉しいっていうか、ああでも変な意味はなくて、えと、だから、その…」
顔を真っ赤に染め、ワタワタと顔の前で手を動かす緑谷。
当然のことながら、彼と終綴の視線は合っていない。
「そっかー。緑谷は私の隣が嫌なんだね、それなら仕方ないや」
ショックだなー、と笑いながら終綴はクラスの中心に戻っていく。
その言葉を聞いて、男子達────主に上鳴と峰田だが────は目をひん剥いた。
慌てて、緑谷は弁明する。
「ちっ違うよ!!!!!!?
ぼ、僕は別に、依田さんの隣が嫌なわけではっ」
そこまで言うと、終綴が嬉しそうに勢いよく振り向いた。
狙っていたのだろうか、緑谷たちの会話を聞いていたようだ。
「え、本当!?
やった、じゃあ私、緑谷の隣ね!」
やったー!と嬉しそうにはしゃぐ終綴を横目に、峰田と上鳴はやはりジト目だ。
「おまえ…今の、狙ってたろ」
「意外と策士だな緑谷ぁ………」
「ひぇっ!?ち、違うよ!?!?」
終綴は整った容姿からか、既にクラス問わず他学年からも人気だが、この2人からの執念は凄いものがあった。
何でも、上鳴は個性把握テストのときに名前を教えてもらえなかったり、峰田は触ろうとしたら「ごめん無理」と、バッサリ斬られたのだそうだ。そのまま、30メートルほど投げ飛ばされたときの衝撃と言ったら、と言っていた。
この場合の衝撃というのは、もちろん身体的な意味の方だが。
──────後者は、自業自得感が否めないけれど。
とにかくそんなことが2人にはあったらしく、終綴と親しくしていられる男子が羨ましくて仕方ないそうだ。