第6章 初対面にて爪を立てろ
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」
相澤の言葉に、1番速く反応を見せたのは終綴だった。
「何するんですかっ!?」
キラッキラに瞳を輝かせて終綴が挙手する。何だか楽しそうだ。
「災害水難何でもござれ、
人命救助訓練だ!!」
相澤もその調子に合わせたのか、僅かに口調がノッている。
声は相変わらず低いため、分かりにくいのだが。
性格は正反対に見えるが、何だかんだ2人は仲がいい。生徒とそこまで密な関係を築かない教師なのに、終綴には(渋々ではあるが)世話を焼いている。
終綴も懐いた様子を見せるし、それは何だか微笑ましい。
「レスキュー…今回も大変そうだな」
上鳴が、ゴクリと唾を飲む。
人命救助。
その言葉の持つ重みに、緊張しているようだ。
「ねー!」
頷いたり、言葉にしてみたり。
上鳴に同調する者は、少なからずいるようだ。
「バカかおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場、ケロケロ」
しかし、やる気満々の生徒もいる。
終綴は後者寄りかと思われたが──────
「おい、まだ途中」
急に騒がしくなった教室を、相澤がギロリと強く睨む。
一瞬で静まった教室に、相澤の声が心地よく響く。
「活動を限定するものもあるだろうから、コスチュームの着用は各自の判断に任せる。
訓練所は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」
はーい!と、小学生のような元気な声で返事をし、皆席を立った。
相澤はああ言っていたが、殆どの生徒がコスチュームで行くつもりのようだった。
終綴も勿論その1人で、大切そうに自身のコスチュームを抱きしめている。
そして数秒後、くしゅん!と、小さくくしゃみをした。
「うう〜…花粉症、辛いなぁ」
もう、やめたいなこれ。
そう終綴の呟きは、誰にも気づかれないまま、ぽろりと床に落ちた。