第21章 暗い場所で輝く
両脚で兎のように飛び跳ね、男の頭上を通り越して着地する。狭いスペースだと、思うようには動けない。
「悪くない動きだ」
男は手袋に手をかけた。
───個性は手が発動条件か。
───なら、手を避ければ良いだけの話。
息をつく暇もなく、少女は左足を軸に右足で回転軌道を描いた。
身長差があるために顔には届きそうにもないが、重いその蹴りは男のみぞおちに吸い込まれていく。
少女の個性発動条件は、"対象に触れること"だった。
そして、発動時間は1時間まで。
彼女は強かったし、その時間内に仕留められなかったことはなかった。
だが、今回ばかりは相手が悪かった。
スッと軽く手を添え少女の足を片手で受け止めた。
そしてそのまま、
「っあ゛っい゛ぃぃ…っ!?」
バツンと音がして、少女は急激且つ猛烈な痛みに襲われた。
バランスを崩して彼女はその場に崩れ込む。
踏ん張れないことに気づき足を見ると、右足が消えていた。
足の付け根のあたりから、とめどなく血が溢れている。
ドクドクと心臓が音を立てる度にそれは溢れ出し、熱を持ち始める。
あつい、いたい。
短い人生だが、その中でも感じたことの無い痛みと熱だ。
止血できるものは持っていない。
この出血量なら、確実に死ぬ。
終わったなと少女は悟った。
これはこの男の個性なのだろう。
自分よりも早く個性を発動したということだ。
なら、どう足掻いても勝てない。
自分の人生こんなに呆気ないものかと思ったが、生きていても豊かな生活はどちらにせよできない。