第21章 暗い場所で輝く
しかし、痛みに呻く少女を見下ろし、男は両腕を広げた。
「俺のところに来ないか」
「ぅ…ぐ、…………は?」
あまりの痛さに幻聴が聞こえたのかと思った。
しかし男を見上げるとやはり敵意は見えず、そして真剣な目をしている。
男は少女と目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「俺のところに来い」
「なんっ……で、」
意味がわからなかった。
この男は、スカウトに来たということか。
自分のことを知っているなら、仲間にするなんてデメリットやリスクが大きいとわかっているだろうに。どうして。
「おまえはこんな場所にいていい人間ではない」
それに、これから仲間にしたいならなぜ自分の足を壊したのだろうか。
疑問が湧き上がる終綴の様子に気付いていないのか、男は続けた。
「おまえは俺の元にいるべきだ。
…捨てられたんだろう?
俺のところに来い、拾ってやる」
痛みも熱も、いつの間にか消えていた。
そこに存在するのは、男と少女だけ。
冷たい瞳。
神経質そうにも見える。
しかし少女は、この男に強く惹かれた。
性的魅力などではなく────そう、魂が共鳴するような、そんな何か。
柔らかい雰囲気と、冷たい空気を併せ持つ男。
「…行く」
気がつくと、そう答えていた。
この男と、共に居たい。
この男のことは、何も知らない。
ただ、自分より強いということしか。
理屈では説明できなかった。
後になっても、彼女は何故だろうと思い返すことになる。
しかし、強く惹かれたのは事実であって。
そうか、と男は頷くと。
少女の足の断面に触れた。
そして、
「っ……、え、…治っ……た…………?」
この男の個性は、どうやら壊すだけでなく治すこともできるらしい。
まだ痛みは残っているが、それよりもこの男と出会えた事の方が少女にとっては重要だった。
男の手を取り、共に立ち上がる。
痛みなんて、気にならなくなっていた。
「治崎廻。俺の名だ」
「…依田終綴」
当時少女、11歳。