第21章 暗い場所で輝く
治崎がこちらに背を向けたのを確認し、ルミリオンと目配せをする。
チャンスかもしれない。
逃す訳にはいかなかった。
「実は最近、エリについて悩んでいまして」
エリ、というのはこの女の子の名前だろう。
路地裏の奥に進みながら、治崎はポツポツと話し始めた。
「何を言っても反抗ばかりで」
マスクをしているのに、青年の声はよく通る。
路地裏には、青年の声と緑谷たちの足音だけが反響していた。
───虐待…か……?
「子育て…大変なんですね……」
取り敢えずと話を合わせる。
「ええ、難解ですよ子供は」
治崎はそこで立ち止まった。
近づきすぎるのも良くないだろうと、緑谷たちも一定の距離を保って立ち止まる。
「自分が何者かになる・なれると本気で思ってる」
薄手のゴム手袋に手をかけた。
振り向きざま、物凄い殺気を感じる。
その一瞬で、こちらにしがみつくエリの力も弱まった。
ぞわりとした感覚は死柄木と対峙したときよりもずっと強く、そして何故かデジャブを感じた。
タッ
エリが緑谷から離れ、治崎の方に走り寄る。
ぺたぺたという足音を響かせ、そのまま緑谷たちのほうはもう見向きもしない。
「え…!?」
「なんだ…もう駄々は済んだのか?」
驚く緑谷たちをよそに、エリはコクリと頷くが。
助けを求めていたわけではないのだろうか。
なぜ。
「いつもこうなんです、すみません悩みまで聞いてもらって…
ご迷惑おかけしました。
ではお仕事、頑張って」
皮肉ともとれる言葉を残し、治崎とエリは闇の中に溶けて消えた。
「ま、待って…!!
なんで…」
思わずその背中を追いかけた。
震え怯えていたあの様子に嘘はないはずなのに。
しかし、
「追わないよ」
ミリオに制される。
「気づかなかったかい、殺意を見せつけてあの子を釣り寄せたんだ
深追いすれば、余計に捉えづらくなる…
サーの指示を仰ごう」
ぽつり、ぽつり。
先程まであんなに晴れていた空も、今は厚い雲に覆われ、雨を降らせはじめていた。
遅らせながら、雨の匂いが鼻をじっとりと刺激していた。