第19章 フクロウは舞い降りる
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皆で声を合わせ、グッと拳を天に突き上げ、下ろした直後。
ちらりと、嫌なものが、見えた気がした。
無視したい気持ちに駆られるが、確認しないわけにもいかない。
渋々そちらに視線を遣るが、
「………は?」
思わず間抜けた声が漏れたのは仕方の無い事だと思う。許して欲しい。
どうしたの?と麗日に顔を覗き込まれるが、それどころではなかった。
終綴の視界の端に捉えられたのは、見覚えのありすぎる、そして忘れるはずもない青年だった。
思わず顔を歪めかけるが、顕著に表すわけにもいかない。
「ごっごめんね、ちょっとお手洗い行ってくる!」
体育祭でもこんなやり取りをしたなと思い出しながら、終綴は走ってその場を去った。
皆からの死角に来たことを確認して、ねぇ、と茂みに話しかける。
すると、目の前からやはりと言うべきか、────荼毘が出てきた。
「よくわかったな、隠れてたつもりだったんだが」
薄笑いを浮かべながら優しく話しかけてくる彼には、気味が悪くて嫌悪感を抱いてしまう。
「…何してんの、邪魔でもしに来たわけ?」
クラスメイトの誘拐だとか、そんなことは正直どうでもいい。
だが、今日この場所で横槍を入れられてしまっては、自分が仮免試験を受けることができないのだ。
自分本位だと言われるかもしれない。けれど終綴にとって、周囲からの評価なんてどうでも良かった。
社会に出てから外面を取り繕えばいいし、家族に嫌われてさえいなければいいのだ。
「俺は終綴のファンなんだ、そんな事はしない…前にも言ったろ?」
確かにそう言っていた。
ファンなのだと。
しかし、それは嘘かもしれないし、信じきるなんてできるはずがない。