第19章 フクロウは舞い降りる
「何がおかしい…」
いつかの状況と真逆の言葉。
あの時は終綴がそれを問う立場で、相手が笑っていたのに。
終綴の表情はフードとマスクにより分からないはずなのに、声色だけで理解できる。
男が困惑すると、終綴は笑いを止めた。
「君たちのことはさぁ、資料見て知ってるんだよ
例えば、君たちが………無個性じゃないとか?」
「………………」
「例えば…そうやって取引相手を乗っ取る、悪い組織だとか?」
訪れた静寂を、ジリッと太陽が焦がすように照らした。
「バレてんなら仕方ないか」
男達は終綴との距離を詰めた。
じりじりと追いつめるようにして、ゆっくりと。
終綴の背中側にはフェンス。
乗り越えるとそこは空中、放り出されてしまう。
空中戦でも弱くはないと自負している終綴だったが、ホークスのいるこの街ではあまり目立つことはしたくないのが本音だ。
彼ら組織に背中を向けて落ちるわけにもいかないが、正面向かったまま落ちると屋上で争っていると気付かれてしまう可能性が高い。
───空中戦はナシだ。
その考えに至るまでの時間、コンマ1秒。
終綴は数歩下がり、フェンスに足の裏を付けてそのまま強くそこを蹴った。
体育祭で見せたほどの威力はないが、それでも爆発的な推進力。
手摺がビィィンと音を響かせた頃には、そこに終綴はいなかった。
バタバタという音に振り返ると、仲間たちの中で終綴が舞い踊り、次々と倒している。
終綴が動く度に風を切る音が聞こえてきそうなくらいのスピードとキレ。
喉、こめかみ、目や股間など、容赦なく的確に急所ばかりを突いている。
自分たちはここらではかなり大きな勢力で、その中でも精鋭を連れてきたはずなのに。為す術もなく。
───あ、これ本気で拙い?
リーダー格の男は漸く気付くが、もうそれは今更だ。
なぜ仲間たちが個性を使わないのか、そんな事にまで頭は回らない。
わかった、降参。これ以上仲間を傷つけないでくれ。
───こいつには勝てない。
そう悟り終綴に縋るまで、そう時間は要さなかった。