第19章 フクロウは舞い降りる
ガチャリ
立ち入り禁止の筈の、扉が開いた。
「噂には聞いちゃいるが…本当に効くんだろうな?
個性が使えなくなる薬、っつーのは」
背後からの声に、終綴は ああ、と頷いた。
何人かの気配がする。
どちらかと言えば友好的な気配で、終綴も僅かに微笑んだ。
「まだ試作段階だから、格安で売るよ」
振り返り、そこに居た集団の中心に立つ男に小さな箱を渡した。
しかし、おいと隣の男が声を上げる。
「話が違う、タダで貰えるからって…」
「ああ申し訳ない、それはウチの若頭からの話でしょ?
でも、今あんたらが相手してるのは私だよ」
「そんな屁理屈がこの世界で通じるとでも思ってんのか!?
弱小組織のく────」
「それ以上私たちを悪く言ったらその雁首掻っ切るよ」
あんたら皆身長同じくらいだから、さぞやりやすそうだ。
終綴が凄むと、男は怯んだ。
ひっと小さく悲鳴を上げ、数歩後ずさる。
しかし、リーダーらしき人物は数歩こちらに進む。
「確かにこんな物をタダで貰えるってのは普通はない話だ、だが先に商売を持ちかけてきたのはあんた達だろ
それに、あんた達は別に俺たちのお得意さんってわけでもない。はいそうですかって、金渡すように見えるのか?」
「困ったな、そっちの話の方が理にかなってる」
あまりにも素直にそれを認められ、逆に困惑する男達。
「でもごめんね、こっちもお金が必要なの」
だから────譲れない。
力ずくで言うことを聞かせる。
これが、この世界で生きる者達の常識である。
恐怖政治が1番わかりやすい。
下克上に怯える者もいるかもしれないが、それは力が不十分だからだ。
完全な力の下には、屈服するしかない。
終綴は組織の意向に完全に沿うわけではないのだ。
普通の社会なら、こんな事は通用しないけれど。
彼らの社会では、罷り通ってしまう。
そして、終綴はそれをゴリ押しする。
「お手柔らかに…お願いしまっす!」
引き締まった脚が、コンクリートを強く蹴った。