第19章 フクロウは舞い降りる
少年の気に障ったのか、彼は眉間に皺を寄せた。
「…………終綴さんがそう仕向けたくせに」
「私は私の良心に従ったまでだよ」
少年の言葉を否定も肯定もせず、終綴はベッドから立ち上がった。
爽やかな笑みを浮かべ、そして。
「1時間後に出発するよ。
ほら、君はそれまでに帰っといて」
「服はどうするの」
「勿論、持ってるよ」
自慢気に終綴がクローゼットを開けて見せると、少年は顔を顰めた。
「これ、ヒーローたちに見られたら終わりだと思うけど」
「大丈夫だよ。
女のヒーローで仲良い教師はいないし、それに」
終綴が浮かべるのは可愛らしい満面の笑み。
その表情に、少年は寒気がした。
彼女は何をしていても、年相応の可愛らしい表情をする。尤もそれは少年が終綴の戦闘を殆ど見たことがないことに起因するのだが、少年の知る由もない。
彼女が彼女のコミュニティの中で、どのような立ち位置にいるかは知らないし、知りたくもない。
あくまで自分は自分と、大切な家族のために働くだけ。
彼女には、あまり深入りしたくない。
幼いながらに、少年はそう思っていた。
彼女は、"怖い人"だ。
何度か彼女の「家族」とやらに会ったことがあるが、皆気持ち悪いものを身につけていたし、何より眼光や雰囲気、彼らの纏うもの全てが怖かった。
しかし、途中で言葉を区切られては、気になってしまう。
それに、何?と、つい聞いてしまった。
そして、平然と返ってきた答えにゾッとする。
「クラスメイトに襲われたって傷付いてる女の子の部屋に、男が入って来れると思う?」