第19章 フクロウは舞い降りる
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太陽が、完全に真上に上った頃。
ふわっと、終綴の部屋に誰かが舞い降りた。
「何?
ここ、寮なんだけど。バレたら拙いの、わかってる?」
終綴はその人物を軽く睨んだ。
「人遣い荒いくせして、よくそんなこと言えるよね…まあいいや。
これ」
はい、と渡されたのは数枚の書類。
「何これ」
「あの人からだよ。
これから動くから、この仕事は任せたいんだって」
要するに自分しかこなせる人間がおらず、彼には時間がないということだろう。
「あんたやれば?」
面倒臭い。
そんな感情を隠しもせず、試しにそう訊いてみる。
だって、仕事はもういくつか既にこなしたのだ。
少年は、終綴の借りたマンションのすぐ隣に住んでいた。
寮住まいになってから会うのは初めてだが、彼とはそれなりに親交が深い。
終綴の家族たちも、少年の存在については知っているのだから。
そう言うと、少年はムッとしたように口を尖らせた。
「終綴さんがそれを言うの?」
少年には、右腕がなかった。
右肩から下は、服に厚みがなくだらりとぶら下がっている。
「怒んないでよ、結果的には助かってるでしょ?」
けらけら終綴は笑う。
少年は、幼い顔立ちをしていた。
いや、実際幼いのだろう。
背丈もあまりなく、体もまだ成長途中のように見える。
少なくとも、高校生には見えない。
「そうだけどさ。
思うように生活できないってのは、結構苦しいよ」
「へーえ。
2、3日に1度、私に会うだけで生活が保証されてるのに?」
意地悪く終綴が唇の端を釣り上げる。
その様は歳不相応で、いやに綺麗だ。