第3章 暗い場所の輝き
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「どうだった」
青年が訊ねるのは、勿論行為の感想ではなく、学校の感想である。
終綴も服を着ながら、そうだねぇと答える。
「今日は個性把握テストだったけど、めぼしいのはいなかったかなー。
…1人、すごいのいたけど」
「"すごいの"?」
抽象的な返事に、青年は詳細を話すよう促した。
終綴は思い出すように、宙を見つめた。
「オールマイト並の超パワーだよ。
使うと、大怪我っていう反動があるみたいだったけど」
「………へぇ」
オールマイト並、に反応を示す青年。
しかし、2人はそれ以上のことについて言及はしなかった。
自分たちが踏み込むべき事柄ではない、とでも言うかのように。
「ま、私は"お兄ちゃん"との再会もできたし、これで満足かなー」
「…引き続き、報告は任せた」
先程の甘い雰囲気などなかったかのように、2人は小さく頷き合う。
それは事務的なもので、恋人らしい空気はどこにも存在しない。
もう一度2人は唇を重ね合わせてから、終綴はふわりと部屋から消えた。
青年の唇に、甘い感覚だけが残った。
青年は見つめる。
終綴の立っていた場所を。
まだ温度の残っているベッドを。
皺も匂いも、まだ────彼女を、感じられる。
自他ともに認める、極度の潔癖症であるというのに、どういうわけだか彼女は最初から触れても平気だった。
むしろ、最近では自分から触れたいとさえ思ってしまう。
性行為など、汚い粘膜の擦り合わせだというのに。
でもやはり、彼女には触れたい。
終綴は綺麗だ。
容姿もそうだが、青年は汚れていると思ったことがない。
献身的な考え方も。
時に冷たい目をして、仕事相手を凍らせる時も。
ただ一途に、自分だけを想うあの心も。
全てが綺麗で、そして美しい。
終綴が雄英に行くと言い始めたのも、全て自分含め家族の為だ。
終綴にとって、ヒーローは自分なのだと言う。
自分のヒーローにとってのヒーローになりたいのだそうだ。
ややこしいけれど。
ふ、と優しい笑みを浮かべて、青年は仕事場に戻っていった。
暗い廊下を、カツカツと。
そして、廊下よりも更に暗い部屋へと入り────…