第3章 暗い場所の輝き
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ふわり。
そんな音でもたちそうな位、柔らかく────終綴は、自室へと降り立った。
否、飛んでいたわけでもないから、この表現は適切でないかもしれないのだが。
そして、ストンと柔らかいソファに腰掛ける。
終綴の体重分だけ、小さく沈みこんだ。
「暫くは、だめ……かなぁ」
自分がこの時期、自宅に戻ることを控えなければならないのは分かっている。
だからこそ、今日帰ってしまった分も含めて、暫くは控えなければいけないのかもしれない。
いや、確実に。
──ま、これもみんなの為だよね。
この道を選んだのは自分だ。
社会的に見れば、褒められることではないのかもしれない。
でも、それでも。
──とにかく、お金が必要だ。
迫り来るは、体育祭。
いや、まだ少し先ではあるのだが。
だが、体育祭を制することができれば確実に、────プロヒーローとしての道は拓ける。
自分の目標は、有名なヒーローになり、潤沢な資金を集めることにある。
その資金は勿論のこと、全額家族で使うつもりだ。
ヒーロー科に来たのもそのためだった。
家族がお金に困っている。
お金を必要としている。
それだけで、理由は充分だった。
今の時点では、クラスのトップはこの自分。
エンデヴァーの息子やヘドロの爆豪など、優秀な生徒もいて少し心配だったが、それは杞憂でしかなかった。
──あの程度なら、どうとでもなる。
──何より、戦闘においてものを言うのは結局…実戦、だしね。
ソファの傍らに置いたままだった、通学鞄を拾う。
そして中身を取り出し、にっこりと笑う。
──大切なもの。
──1番最初の、プレゼント。
恋人が恋人になる前。
自分があの家族に拾われ、すぐに来た誕生日。
その日に、皆から貰ったものである。
どうせ、家業に勤しんでいる時以外に使うことはできない。
だから、暫くはこのままだろう。
学校でも、絶対に出すことなんてできない。
この存在を知られたら最後────の、はずなのだが。
学校にわざわざ持って行くのには、なんの意味があるのだろうか。
それを知る者は勿論、彼女だけだ。
優しく優しく、その「大切なもの」を撫で────
そっと、終綴は目を閉じた。
意識は暗闇に引き摺りこまれる。
終綴はただ1人、幸せだった。
恐らく、この世の誰よりも。