第3章 暗い場所の輝き
唇を離すと、濡れたそれがてらりと照明の光を反射した。
どちらのものか判らないそれに濡らされた唇は、いやに扇情的だった。
「…ねぇ、普通は縛らないって聞いたんだけど」
終綴が、手首を包帯で縛ってくる青年に笑いかけてくる。
「嫌なのか」
青年は、淡々と。
終綴の服を脱がしながら、そんな事を問う。
「その訊き方はズルいや…」
終綴は諦めたように、身を委ねた。
「汚いんじゃ、…なかったの、」
「汚くない。おまえは綺麗だよ」
こちらが何と答えるかを知っていても尚、同じことを何度も訊いてくる。
この答えが嬉しいのだろう。
青年もそれを当然かのように受け取り、そしていつもと同じ言葉を返す。
青年の舌が、薄らと線の入った腹筋を丁寧になぞった。
その感触に、終綴は切なげに声をあげる。
「それ、やだ…」
しかし、青年は意に介さず思ったことを呟く。
「肉、ついたな」
ギクリと固まる終綴。
艶っぽい雰囲気が、一瞬にして消え去った。
「…トレーニング、してないだろう」
「うぅ…ごめんなさい、ちゃんとします…」
しょんぼりと項垂れる終綴。
しかしそれも一瞬、
「ひぅ!?」
急すぎる刺激に、終綴は大きく震えた。
情けない声に、思わず唇を噛む。
口元を抑えたくても、手が縛られているせいで叶わないのだ。
「あ、あ、」
嬌声も高くなる。
終綴を愛おしそうに見つめ、青年は耳元で何かを囁いた。
「っーーー!!」
視界は真っ白になり、終綴はそのまま意識を手放した。
「…………」
ベッドに横たわっている恋人を、青年は静かに見つめていた。
愛しい愛しい、自分の恋人。
恋人、家族、理解者、仲間────色んな呼び方ができる彼女は、自分にとって紛れもなく1番の「大切なひと」だった。
自分が家業を継いでから、1番に理解を示したのは彼女だった。
無条件の信頼と、無償の愛。
彼女が雄英に入ったのも、この家に楽をさせて、自分を好きにさせてやりたいとの考えからなのだ。
世間的に褒められるか否か、そんなものは関係ない。
家のためになればいい。
彼のためになればいい。
願いはたった、それだけだった。