第18章 その瞳は何を映す
しかし、終綴は表情を変えなかった。
彼らは相変わらず個性を使えない。
終綴が封じているのだから当然だ。
ならば、ボールを投げるか素手で戦いに来るしかないのだろう。
ただし、この場合にボールを使うと、仲間に当たってしまう恐れがある。
皆示し合わせたように、素手で来た。
ひょいっと終綴は背中を反らし、後ろからの蹴りを躱す。
そして躱した体勢のまま、カメレオンの舌を思わせる勢いで、右足を男の顎目掛けて突き込んだ。
鉄板の仕込まれた安全靴が突き進む。
見た者を、本当に終綴は人間なのかと疑わせるような体勢を、何の苦もなく当然のように続けている。
切り取ればそこは、華麗なアクションマンガの一コマ。
流れるような動きは恐ろしい程に美しく、まるで踊っているかのよう。
終綴が何か仕掛ける度に何人かダウンし、動く度に揺れる、白色のネクタイ。
時間にして数分。
5分も経っていないであろう短い時間。
そこに立っているのは、終綴だけとなった。
「こんなんじゃ、大切な人を救けるヒーローになんてなれないよ」
ボソリと呟くと、それに答えるように大地が僅かに揺れた。
誰かの個性だろうか。
「…合格しなくちゃね」
空を見上げ、他の受験者たちに視線を戻してから足元に倒れていた2人にボールを当てる。
「通過者は控え室へ移動してください はよ」
終綴がつけていた的がピピッと音声を流した。
反応があまりにも早く、少し驚く。
そして、合格を確認してから、掌を開いた。
『あ、1人目の通過者が出ました…って早…』
そんな放送を聞きながら、終綴は大きく伸びをしている。
───1度控え室に戻る前に、他のクラスメイトたちの様子を見よう。
指示に従うつもりは全くないらしい。
どこから行こうか。
ゆっくり、終綴は歩き出した。