第18章 その瞳は何を映す
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そんな合図と共に、終綴は一瞬で状況を把握した。
死角の多い都市部、しかし終綴がいるのはビルの上。
屋上だ。
気配を消しているからか、はたまたビルの背丈が高いからか。
誰も終綴に気付いていない。
皆、目の前の敵へとボールを投げ始めた。
勿論皆個性を使っているが、終綴にとってめぼしいものは居ない。
「……………」
集団の中央に掌を向けて、ぎゅっと握る。
飛んでいた者は地面に落ち、一瞬場の空気が固まった。
「個性が…使え、ねえ…」
「何なんだこれ!?」
騒乱の中に、終綴は躊躇なく飛び込んだ。
まさか空から人が降ってくるとは思わなかったらしく、受験者は皆驚いた顔をしている。
しかし終綴はというと、無表情。
固まったままのライバルたちへと、攻撃を開始した。
容姿も相俟って、彼女の動きは鮮やかと形容するに相応しい。
片足を軸にしたハイキックが、男の喉を直撃した。
男は悲鳴を上げる暇もなく昏倒する。
そして終綴は浮かせた足を降ろすことなく、そのままの体勢で膝を折り曲げた。
絶妙なバランスで片足立ちしたまま、彼女は別の男の喉元に、浮かせていた足の爪先を突き刺した。
容赦も遠慮も慈悲もない、的確すぎる動き。
終綴から少し離れた場所にいる受験生たちは、やべぇぞと慌てだした。
このままだと、自分たちまでも不合格になってしまう。
終綴は何故かボールを投げようとする素振りすら見せず、ただひたすらに周囲の気絶を誘っている。
自分たちが合格するには、まず彼女を脱落させなければならないのだ。
緑谷は、学校単位での対抗戦が理にかなっていると言っていた。
しかし、ここで誰も予想していなかった展開になる。
うぉぉぉ!
何故声を上げたのか。
後になって考えてみれば甚だ疑問だが、しかし。
彼らは一丸となって、終綴に襲いかかったのである。
学校単位でのとか、そんなものは一切関係なく。
終綴だけを敵として、数の暴力が襲いかかった。