第17章 森の忍者は夜に狩る
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「っラァ!」
力んだ体を弛緩させ、エクトプラズムの批評を待つ。
───相澤先生が放っておくくらいだし、あの実力だ。
───依田はきっと、合格する。
恐らく、クラスの誰もがそう思っている。
自分以外が彼女の欠席について言及しないのは、そういう事だ。
終綴には、人を惹き付ける何かがあるのと同時に、気迫もある。
鬼気迫るような…そんな、決意というのだろうか。
そんなものが、彼女には感じられる。
何も知らない自分たちが彼女の覚悟を感じられるくらいなのだから、きっと、いや間違いなく彼女は合格するのだろう。
そう思わせるのは、彼女の成績でも個性でもない、もっとほかの何かである。
彼女はきっと、誰よりも、ヒーローに近い。
緑谷ほど「救けたい思い」が強く感じられるわけではないのに、なぜかそう感じる。
爆豪は終綴に何か話があると言っていたけれど。
お前もアレなのか、と問うと、無表情のまま、こう返された。
────『…女は選べよ』
どういう意味だ。
終綴を軽んじているのだろうか。
もしそうだとしたら許せないが、意味もなく爆豪はそんな事をする男ではない。
口は悪いが、正当な評価はできる人間だと切島は思っている。
爆豪の発言で、分かったことは2つ。
爆豪に、自分が終綴へ抱く気持ちはバレているということ。
終綴が、何か自分にとって良くない方向に働く可能性があるということだ。
可能性がある、としたのはそれを信じたくない自分がいるからで。
そしてその事柄について、自分では全く想像もつかない。
ああ見えて爆豪は冷静だし、頭もよく切れる。
才能に溢れ努力も怠りはしない彼の目には、自分では想像もつかないものが映っているのだろう。
漠然とした不安に駆られるが、終綴が背負うものならそれが例え何だとしても、受け入れようと切島は思っていた。
───俺は、特別依田と親しいわけじゃない。
───でも…話してくれるのなら、それまで待つし、何だって受け止める。
しかし、現実は甘くない。
硬化できるのは、あくまで身体だけで。
心は硬くならず。
深く深く、柔い内奥に突き刺さる。
この日からそう短くない間に。
切島鋭児郎は、絶望を味わうことになる。