第3章 暗い場所の輝き
▼終綴が現れた!
したこともないゲームの画面を想像し、青年は溜息を吐いた。
「…早いな」
一人暮らしは今日からのはずだ。
いくら本人が嫌がっていたとはいえ、これほど早く帰ってくるほど弱かったろうか?
尾行はされていないだろうが、それでもあまり頻繁に帰ってこられるのは困る。
否、顔を合わせることができるのは嬉しいのだが。
冷たく一瞥する。
しかし、終綴の表情は熱っぽい。
「………どうした」
「ん…」
返事にならない返事をして、終綴は、擦り寄ってきた。
猫のようなその行動に、したいことは言わずとも理解する。
どうやら自分の恋人は、発情期のようだ。
「…盛るな、せめて自室に行くまで待て」
仕事部屋ではしたくない。
せめてもの抵抗(?)に、終綴は嬉しそうに笑った。
青年に抱きついたまま、その耳朶に熱い吐息がかかる。
「急にどうした?」
終綴を抱え上げながら、優しく問う。
廊下ですれ違う家族たちには冷やかしの目で見られるが、そんなものを気にする2人ではない。
マスク越しに、終綴はちゅっ、ちゅっとリップ音を繰り返す。
うわ言のように好きだと繰り返すこの少女を可愛いと思ってしまうのは、こちらもだいぶ参ってしまっているからだろう。
「触ってほしくなって」
自室に入り優しくベッドに下ろすと、悪戯っぽく終綴は笑った。
「ここに来てまで?」
「うん。やっぱり、離れるのは寂しい────」
こっちには来てくれないでしょ?
と、終綴は小首を傾げた。
余程寂しいらしい、その間にも青年を急かすように腕を広げている。
青年は再び、溜息を吐きたくなった。
いつからこの少女は甘えたになったのだろうか。
いつから自分はこの甘ったれを可愛いと思ってしまうようになったのだろうか。
「…俺も会いたくないとは思ってない」
寧ろ、会いたい。
らしくもなく、そう呟いてしまう。
終綴の嬉しそうな表情を見て、後悔するかのようにして唇を重ね合わせた。
今の言葉は忘れてくれ、そう伝えるかのように。
蕩けるような表情で、終綴もそれに応えた。