第17章 森の忍者は夜に狩る
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「1棟1クラス、右が女子棟で左が男子棟と別れてる。
ただし1階は共同スペースだ」
寮という響きから、もっと簡素なものを想像していたのかもしれない。
生徒たちは、綺麗な作りと広さに興奮していた。
「中庭もあんじゃん…!」
「豪邸やないかい」
「おお…」
「風呂も洗濯も…共同…だって……?」
違う部分に興奮する峰田に、相澤はいい加減にしとけよと釘を刺す。
兄妹そろって怖ぇよとの呟きを理解したのは、その場で相澤ただ1人だけだった。
「んで、部屋割がこれだ」
印刷された紙を生徒たちに配り終え、相澤は仕事が終わったと言わんばかりに背を向ける。
このまま解散するらしい。
「おい」
ポケットに手を突っ込んだまま、爆豪が相澤を引き止めた。
「依田は今日休みなんか」
ざわっとクラスメイトたちは小さく騒ぐ。
爆豪が依田をよく見ていることを、クラスメイトたちは皆よく知っていた。
生徒たちのざわめきを感じ取り、相澤は漸く理解した。
───なるほど、そういう事か。
爆豪は素直になれないから、険しい顔でずっと終綴を見ていたのだろう。
睨みつけているのだとばかり思っていたが、あれは見つめていたのだ。
しかし、終綴は彼氏がいると言っていた。
報われない恋も大変だな、と相澤は思う。
「…暫くは家庭の都合で来ない。
仮免には間に合うようにすると言っていたが…話があるならその時までとっておけ。直接話すのを勧める」
終綴が本当に内通者であるのなら、敵連合のアジトにいたはずの爆豪が名前を聞いているはずだ。
それでも尚想い続けているということは、つまりはそういう事。
良かったとらしくない安堵を、相澤は人知れず漏らした。