第3章 暗い場所の輝き
飯田とは駅で別れ、それから終綴は逆方向に歩き出した。
電車で誰に見られるか判らないし、家を特定されるのはできるだけ避けたいからだ。
だから、高校の最寄りの駅は使いたくない。
しかし家に着くと、
「…………寂しいなあ」
雄英入学が決まってから購入した、安普請のアパート。
部屋に入ると、広さに見合っていない大きさのソファが置いてあった。
黒い革張りのものである。
──革、あんまり好きじゃないんだけどな。
しかし家族からの贈り物だろうと思うと、何だか嬉しい。
そして仕方なくそこに腰掛けると、
──……?
革の部分が丈足らずであることに気付いた。
そしてそこを良く見てみると、
「カバーかよ!?」
その革の部分が、カバーだったことに気づく。
思わず突っ込んでしまった。
カバーを捲ると、中からは柔らかそうな白いソファが現れた。
これも家族の仕業だろう。
こんなお茶目な仕掛けを好んでする者など、1人しか考えられない。
──あ、あいつ〜!!!!!
勿論、恋人の彼ではない。
彼はそんな面倒なことはしないし、何なら自分の住む場所に興味も示さないだろう。
ここは見るからにボロアパートだし、寄ってくれることもなさそうだ。
高級志向ではないのだが、そもそも一人暮らしを命じたのは彼であるし、今は一緒にいない方がいいのだ。
それは家族のためでもあり、終綴のためでもある。
会わない方がいいなんて、ほかの人が聞いたら、寂しい関係だと言うかもしれない。
でも違うのだ。
──私のことを、ちゃんと考えてくれてる。
──私の意図を、汲んでくれてるから。
だから、会えないこと自体は寂しいけれど、理由を思うと寂しくはない。
愛しい顔、大好きな声、引き締まった身体、優しい手つき。冷たい瞳。
いつも自分を、包みこんでくれる。
「……………」
最中を思い出し、体温が上がった。
こめかみから頬を伝う、一筋の汗。
普段汚れるのを嫌うのに、────
──あ、だめなやつだこれ。収まんない。
更に上がってしまった体温を、収める方法など知らない──発散する以外には。
「………限界」
そう呟いて、終綴は部屋から消えた。