第16章 削がれた爪
「ま、それより…ヒーロー志望の爆豪勝己くん、君にいい話がある」
不愉快な話題から遠ざけるためかそれとも本当に心当たりがなかったのか、それとも彼女との繋がりを詮索されないためか。
意図は判らないが、にやりと笑って死柄木は続けた。
「俺の仲間にならないか?」
───俺を殺さず誘拐したのはこれを言うためか。
聡い爆豪は、一瞬でそれを理解する。
そして、何言ってんだ、と嘲笑を浮かべた。
随分と舐められたものだ。
こちらはヒーロー志望だというのに、まさか敵側につくとでも思われているのだろうか。
「寝言は寝て死ね」
***
会見が始まるまでの間、たくさんのことを話した。
何かある度報告していたがやはり、直接言うのとメールとでは違う。
USJのこと。
体育祭のこと。
普段の授業のこと。
休日に何しているか。
クラスメイトとの関わり方。
合宿のこと。
そして、─────荼毘のこと。
皆、その瞬間目を丸くした。
「へぇ…お前のことを知る奴が敵連合に」
「殺せばよかったのに」
「終綴のファンなんて、物好きだな」
体育祭で、世間に本名と顔が知られたのはわかっている。
だが基本的に、終綴を知る人間は憎悪を糧にして生きているし、何より終綴を好ましく思う者は少ない。
そして、そもそもの前提として、終綴の存在を信じる者自体少ないし、テレビで見ただけで本人とわかるほどの人間など、極ひと握りでしかないのだ。
それを終綴も解っていた。
「ちょっとタイミングが悪くて殺せなかったんだけど…うん、でも、敵連合の他の奴らからは庇ってくれたんだ」
その点については感謝してる。
終綴は俯きがちに笑った。