第16章 削がれた爪
「俺ら如きに依田終綴は殺せねえよ」
ツギハギ男が答えた。
爆豪が抱くのは違和感。
あのツギハギ男は、妙に終綴を庇っている。
というより、終綴の肩を持つような話し方だ。話題を、終綴から遠ざけようとばかりしている。
死柄木とは対照的に、終綴を殺したくないと思っているかのような。
そういえば、自分が攫われるとき、「また会おう」と言っていたのは、この男だった。
どういうことだろうか?
この男以外のメンバーで、そのような素振りを見せる者はいないけれど。
この男だけが、ワケありなのだろうか?
──やっぱり知り合いか?
敵側に知り合いのいるヒーロー志望など、いてたまるかとは思う。
けれど、それらしい素振りを見せているのが現実。
自分が仮面に捕まり、ビー玉の中に入っていた時も、同じような違和感があった。
緑谷や轟はあんなにも必死に戦っていたというのに、終綴は無傷でその場にいながらも、彼らを眺めているだけだった。
あの球の中からは、はっきりと外の様子が伺えた。
ゾッとするような、終綴の冷たい瞳。
風など吹いているはずがないのに、なぜかとても寒く感じた。
救けてほしい、とは思っていなかった。
自分でどうにかできる、そう自らを鼓舞していないと、やってられなかったから。
だけれど。
仲間たちが目の前で傷つき戦っていたというのに、なぜ終綴は、あんなにも平然としていられる?
なぜ、目の前の敵と交戦しない?
逃げもしないのに?
そもそも、なぜあの場所にいた?
考えるほどに、募る終綴への不信感。
──まさか、
最悪な結論にたどり着こうとした直前、死柄木がこちらを向いた。
「目が覚めたか、爆豪勝己くん」